堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

西村絵里も自分の感情をそのように落ち着かせるしかなかった。


しかし、西村絵里が席に座るやいなや、矢崎凌空が高慢な態度で自分に向かって歩いてくるのを見た。


「西村絵里、あなたは本当に腕があるわね。たった一日で氷川様の8つのデザイン案を獲得するなんて。」


どうやら、黒田グループと氷川様の提携案はすでに締結されたようだ。そうでなければ、スムーズに黒田グループに伝わることはなかっただろう。


西村絵里は唇を引き締め、さりげなく口を開いた。「主任のご心配ありがとうございます。これからも頑張ります。」


矢崎凌空の言葉に、周りの人々は思わず前に出て見物し、口を開いた。


「西村絵里、すごいわね。一気に8つもの提携案を獲得するなんて、しかも一日でよ。」


「そうよね、普通の人なら一年でも8つは無理なのに、あなたは一年で。」


第302章 お前は俺、黒田真一の妻だ2更(5)

第302章お前は俺、黒田真一の妻だ2更(5)