第303章 お前は俺、黒田真一の妻だ2更(6)

西村絵里は心の中の怒りを抑え込み、美しい瞳に冷たい光が走った。

矢崎凌空の口元の笑みはさらに濃くなり、無造作に意図的な皮肉を口にした。

「あらあら……西村絵里、あなたが私と主任の座を争うために一生懸命努力していることは分かるけど、でもね、人は分を守らなきゃいけないわ。利益や権力のために、何か天地を傷つけるようなことをしちゃダメよ」

「はぁ……あなたはまだ若いのよ、自分を台無しにしちゃダメよ。私が知ってるわ、この氷川様は奥さんも子供もいるのよ。それだけじゃなく……外にはサンちゃんやヨンちゃんもいて、数え切れないほどよ。あなたが行ったところで、愛人にしかなれないわ。愛人は弄ばれるだけなのよ」

西村絵里:「……」

この矢崎凌空。

本当に自分に罪を着せてきたわね。

「はぁ……あなたが主任の座が欲しいなら、譲ってあげることも考えるわ」

西村絵里:「……」

白蓮の花ね。

西村絵里は本当に罵りたくなった。

くそっ……

白を黒と言い張るなんて、矢崎凌空は本当にやってのけるわね。

西村絵里の美しい瞳には皮肉が満ちていた。少し自分の考えを整理して、ゆっくりと反論しようとした時……

突然、受付の秘書が一人の人を連れてやってきた。

西村絵里の視線が入ってきた男性に落ち、美しい瞳が一瞬凍りついた……

氷川様だ。

噂をすれば影、なんてタイミングなの?

西村絵里は口角をピクリと動かした……

「西村さん……こんにちは、こんにちは」

氷川様の顔には笑みが溢れ、黒田デザイン部に入ると、人々の中で自分のオフィスチェアに座っている西村絵里を見つけ、恭しく前に進み出た。

氷川様がまさか「こんにちは」という敬語を使うとは、皆は思わず驚いた。

矢崎凌空も丈二の坊主で頭が掴めないといった様子で、これは一体どういうことなのか?

もし氷川様が黒田真一に「こんにちは」と言うなら、それは全く当然のことだ。

しかし、西村絵里はただのデザイン部の小さな社員に過ぎない。

氷川様がまさか「こんにちは」を使うとは……

西村絵里は氷川様が恭しく近づいてくるのを見て、唇を噛み、小さな手を伸ばした後、簡単に握手をして、それから手を引っ込めた。

「はい、氷川様、お気遣いなく」