堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

「氷川様、どうしてそのようなことを？」


「これは……黒田社長が私に話してくれたんです……あなたが上条涼太だと。」


黒田真一……出張に行ったんじゃなかったの？


上条涼太は黑田奥さんのこと。


以前、黒田真一は藤原お爺様の誕生パーティーで大金を投じ、上条涼太のデザイン作品「寅虎」を買い取った。


西村绘里が上条涼太であり、つまり、西村绘里は黑田奥さんなのだ。


西村绘里は氷川様の顔に探りや偽りの色がないことを確認し、どうやら本当に黒田真一が話したようだと確信した。


彼は一体何のつもりなんだろう。


「黑田奥さん、ご存知ですか？黒田さんはあなたのために大金を投じ、10億円もかけてあなたの上条涼太というデザイナー名の価値を高めたんです……今では、あなたの作品は一つ一つが億を超えるほどの価値があるんですよ。」


だから……氷川様は最初、自分はスイカを失ったと思っていた……


しかし思いがけず、ゴマを失って、大きなスイカを拾ったのだ。


なぜなら……この8つの西村绘里の親子デザイン案は、どう考えても数億円の価値があるから。


自分はたった1億円多く払っただけだ。


だから、これが氷川様の態度が変わった最も重要な理由なのか？


西村绘里は美しい瞳を輝かせ、その言葉を聞いて少し顔色が変わった。


黒田真一がこうしたのは……


氷川様に自分を恨ませず、むしろ感謝させるためなの？


「黑田奥さん、黒田社長は本当にあなたに気を遣っていますね……最初は私が目が利かなくて、気づきませんでした。黑田奥さん、本当に美しいですね、黒田社長とは本当にお似合いです。」


「ご安心ください、あなたの身分については、私は口を固く閉ざし、誰にも言いません。」


西村绘里は唇を噛み、今やおおよその経緯が理解できた。


西村绘里は深呼吸し、少し考えてから、静かに言った。


「ありがとう、氷川様にお任せします。」


「なんとおっしゃいますか、これは私の光栄です。」


氷川様の自分に対する態度が昨日とは別人のようだ。


これが黑田奥さんであることの利点なのだろう。


西村绘里は口角をわずかに引き、それ以上は言いたくなかった。今一番したいことは、黒田真一に問いただすこと、なぜこんなことをしたのかを。


第305章 お前は俺、黒田真一の妻だ2更(8)

第305章お前は俺、黒田真一の妻だ2更(8)