VIP観客席の良いところは、後ろに人がごった返していないので、自由に立ち上がれることだ。
前半のコンサートでは……全部で10曲も歌った。
BOyは会場のファンとも交流した。
甘奈は心の中では嬉しくて、興奮していたが、大きな目はまだスマホの画面を見つめていた。
はぁ……
パパは自分のことを忘れてしまったのかな、約束を破ったのかな。
うーん……
そんな風に考えちゃダメだ、パパが約束したことは、きっと守ってくれる。
パパの言葉を心から信じなきゃ。
そう思うと、甘奈は小さな唇を尖らせて、自分を慰め続けた。
でも心の中では止まらない失望感が……
……
VIP休憩エリア:
黒田真一は長身を本革ソファに座らせ、このコンサートで最高の視界を独占していた。
うん……
コンサートは前半と後半に分かれている。
前半がもうすぐ終わるところで、間に30分の休憩時間がある。その時に、甘奈と甘奈のママ、それからもう一人の副団長を招待するつもりだ。
その時は……
うん、後半は一緒に見よう。
最初から招待しなかったのは、実は小さな女の子に驚きを与えたかったから。
一度失って再び得るものは、しばしば何倍もの喜びをもたらす。
そう考えながら、黒田真一は黒い瞳を細めた……
彼のスマホには、甘奈からかかってきた未応答の電話が10件もあった。
黒田真一は目を細め、薄い唇がかすかに上がった。前半のコンサートが終わったことを確認すると、自らスマホを手に取り、甘奈に電話をかけ直した。
「もしもし……おじさん……来たの?どこにいるの?……」
甘奈は待ち時間が少し長かったので、黒田真一が来るかどうか確信が持てず、声には思わず泣き声が混じっていた。
小さな女の子のこの声を聞いて、黒田真一はすぐに心が柔らかくなった。
「うん、来たよ……甘奈、今ステージの向かい側のVIP休憩エリアにいるから、ママと一緒に来てごらん。」
「わぁ……本当?いいよいいよ……うぅ、おじさん、行かないでね、待っててね。」
「わかった、いい子だね、待ってるよ。」
黒田真一は電話を切り、甘奈の泣き声に少し心が痛んだ。
ソファの上に置かれた精巧に包装されたキャンディーと人形の箱に視線を落とすと、黒田真一の口元の笑みが思わず上がった。