堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

甘奈が病気になったことについて、西村絵里はあまり話したくなかった。


黒田真一……も知るべきではなかった。


黒田真一は目を細め……女性の脆弱な姿を見つめた。


このような西村絵里の姿は、普段の賢明な女性との鮮明な対比を成していた。


黒田真一の黒い瞳はさらに深遠になった、あの時の事故……


西村絵里はまだ18歳の子供だった。


「つまり……子供は悠生のものではないのか？」


「違います……香坂悠生は今でも甘奈の存在を知りません……」


黒田真一は目を細め、大きな手を上げ、最終的にゆっくりと西村絵里を抱きしめた。


「西村絵里、おめでとう……また一度、私を翻弄したな。」


男性の逞しい胸と熱い息遣い、西村絵里はしばらくの間、黒田真一の言葉の意味が理解できなかった。


男性の身に纏う殺気が少し薄れ、全体的に怒りが収まっていた。


黒田真一の深い瞳は、さらに深く沈んでいった。


西村絵里という人を認め……


今では、甘奈という娘も認めた。


黒田真一は、西村絵里に出会ってから、本当に自分らしくなくなったと感じた。


それぞれ異なる程度で、自分を深く惹きつけていた。


自分は切実に西村絵里のような女性、甘奈のような娘が欲しかった。


西村絵里は男性から発せられる温もりを感じ、少しほっとした。


黒田真一の……後からの清算。


そう思うと、西村絵里は思わず弱々しく尋ねた。


「黒田真一……これは後からの清算なの？」


「それなら……終わったの？それとも嵐の前の静けさ？」


西村絵里は時々黒田真一に逆らうことがあった、残業代や給料、ボーナスのことで、誰が正しいか誰が間違っているかを論じることもあった。


しかし、本質的には、自分は黒田真一を非常に恐れていた。


黒田真一の心は、海のように深かった。


自分が理解できるものではなかった。


しばらくして、男性の磁性のある声が耳元で響いた。


「これから、君と……男と女がするべきことをする。」


第343章 夫婦の間でする事2更(6)

第343章夫婦の間でする事2更(6)