堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

西村絵里の手のひらは汗でびっしょりだった。皆の注目が自分から離れた隙に、急いで黒田真一に電話をかけた。


「黒田真一、一体どういうつもりなの？」


電話が繋がるとすぐに、西村絵里は我慢できずに詰め寄るように尋ねた。


黒田真一は長身を廊下の端に立たせ、角の向こうで携帯を手で覆い隠しながらこっそり自分に電話をかけている女性を見つめ、細めた黒い瞳で無関心そうに口を開いた。


「黒田奥さん、どうして朝から……そんなに怒っているんですか。」


自分がこんなに怒っている理由を、彼が知らないはずがない。


西村絵里は心の中の嫌悪感を押し殺し、他の人が注目するのを恐れて小声で尋ねた。


「黒田真一、あなたは知っているでしょう……私にはとても務まらないって……あなたが今、総責任者の権限を私に渡すのは、実質的にこの提携案を手放すようなものよ。」


第429章 西村絵里の給料カードをあなたに1更(7)

第429章西村絵里の給料カードをあなたに1更(7)