第469章 旦那様、口を開けて2更(9)

黒田真一は彼の愛娘を抱いているだけで、西村絵里の手を取ることはなかった。

この夫婦関係は……

とても疎遠に見える。

ゲイル社長は少し戸惑いながら、口元に笑みを浮かべた。

「さあさあ、中へどうぞ。食事の準備はできていますよ。」

「ありがとう。」

黒田真一は甘奈を抱きながらリビングの方向へ歩き出したが、視線の端では後ろにいる西村絵里に目を向けていた。絵里のドレスは少し長かったので、階段を上るときにはドレスの裾を持ち上げる必要があった。

黒田真一は大きな手を伸ばしたが、西村絵里は下を向いていたため気づかなかった。

黒田真一は歩いていた足を、意識的か無意識的か少し止めた。

うーん……

西村絵里は今回避妊薬を飲もうとしている。だから今回は、何があっても絵里の気まぐれに任せるわけにはいかない。

そう考えると、黒田真一は西村絵里が無事に階段を上ったことを確認した後、さりげなく彼女から視線を外し、歩き続けた。

甘奈は小さな口をもぐもぐさせながら、黒田真一の耳元に近づき、こっそりと言った。

「パパ、さっきママを待ってたの?」

「ん?」

黒田真一は腕の中の小さな女の子が年齢は幼いながらも自分の心を見透かしていることに驚き、細長い黒い瞳を細めた。

「もう…パパ、ママが好きなら言わなきゃダメだよ。そうしないと…ママはパパが待ってたって分からないよ?」

甘奈は小さな大人のような様子で、とても賢く見えた。黒田真一は口元を引きつらせ、この小さな女の子に対して苦笑いを浮かべた。

よく考えてみると……

確かにそうだった。

自分のさっきの微妙な動きは、自分と甘奈が言わなければ、西村絵里は永遠に気づかないだろう。

「私は…ある種のことは、見なくても感じることができると思うんだ。」

黒田真一は確かに思慮深い性格だが…藤原海翔のような自由奔放な性格にはなれず、何でも口に出すのが好きというわけではなかった。

自分が望む女性とは、二人の思想レベルが一致していなければならない。

「もう…パパってドンくさいなぁ…女の子の気持ちは、そう簡単に分からないんだよ…」

「そう?」

黒田真一は…

自分はこの分野での感情知能があまり高くないかもしれないと感じ、甘奈からしっかり学ぶ必要があると思った。