第604章 西村絵里、あなたは私に恋をした1更(2)

「黒田真一、手を離して……」

男の大きな手の甲には点滴が刺さっていて、西村絵里はあまり力を入れることができず、針が男の血管を傷つけてしまうのではないかと心配していた。

黒田真一は西村絵里の言葉を聞いて、薄い唇を少し噛んでから、再び尋ねた。

「西村絵里、さっき何を言おうとしていたんだ?」

西村絵里:「……」

黒田真一は彼女が言わなければ手を離さないという意図を明らかにしていた。

西村絵里は黒田真一の手の甲の血管が傷つくことだけでなく、胸の傷が開いてしまうことも心配で、唇を噛みながら小さな声で言った。

「黒田真一!子供じみたことをやめてくれない?」

女性の美しい瞳は赤く、少し怒ったように叱責した。黒田真一は薄い唇を噛んだが、視線は一度も西村絵里から離れなかった。

「わかった!でも教えてくれ、さっき言い終わらなかった言葉は何だ?」

西村絵里:「……」

こんなに強気な態度、どこが病人なのだろう。

西村絵里は唇を噛み、男の言葉を聞いて不機嫌そうに言った。

「うーん……私が言おうとしていたのは……黒田真一、もしあなたが本当に何か事故に遭ったら……銀行カードの暗証番号をまだ教えてくれていないってことよ」

黒田真一:「……」

女性の明らかに心にもないでたらめな言葉を聞いて、黒田真一の口元に魅惑的な笑みが浮かんだ。顔は青白かったが、どこか…心を揺さぶるほど魅力的だった。

黒田真一は細長い黒い瞳を少し細め、再び魅惑的な笑みを浮かべた。

「ああ…聞く必要はない…そういうことは村上秘書がすべて手配するだろう…結局…君は私の妻であり、遺産の相続人なんだから」

西村絵里は最初は冗談めかした口調だったが、黒田真一が遺産について話し始めると、思わず小さな手を伸ばして彼の唇を覆った。

「縁起でもないことを言わないで、黒田真一……あなたの命まで背負いたくないわ」

黒田真一は西村絵里の言葉を聞いて、黒い瞳に一瞬輝きが走った。大きな手は西村絵里の細い手首をずっと握ったままで、少しも離そうとしなかった。

「西村絵里……君が望むなら、私のすべては君のものだ、この命も含めて……だから、君は私に借りなどないんだ」

黒田真一は香坂悠生のように、いわゆる人助けをして道徳的な束縛をするようなタイプではなかった。