011 彼女に、全ての忍耐と専心を捧げる

佐々木萌那が口を開くと同時に、個室内の人々は藤原景裕を見つめ、彼の指示を待っていた。

村上念美は無意識のうちにテーブルの下で小さな手を握りしめ、心が宙に浮いたような気分だった。昨日は藤原景裕を怒らせてしまい、今日はまた偶然に彼の前に現れることになった。きっと藤原景裕は自分に会いたくないだろう。

「注文しよう」

藤原景裕の磁性のある声が薄い唇から漏れ出し、はっきりと響いた。

彼は冷たい性格で、発する言葉にも人を威圧するような冷気が漂い、反論の余地を与えず、強大な圧迫感とともに、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

藤原景裕が注文しようと言った瞬間、村上念美は自分がもう逃げられないことを悟った。

今この場で自分が立ち去れば、それは藤原景裕の面子を潰すことになる。

……

佐々木萌那は内心喜び、ウェイターを呼んでメニューを丁寧に藤原景裕に渡した。そして意図的に藤原景裕の前で腰を低く曲げたが、藤原景裕は彼女を一瞥もしなかった。

「藤原さん、ご注文をどうぞ」

「ああ」

藤原景裕は無意識にメニューを村上念美に渡そうとしたが、自分が何をしているのかに気づくと、表情を変えずにメニューを隣の助手に渡し、薄い唇を引き締めた。

「君が注文してくれ」

助手は恐縮したような表情で、顔色を少し変えた。

「は、はい、藤原さん」

村上念美:「……」

村上念美は軽く唇を噛み、美しい瞳に一瞬の苦さが浮かんだ。習慣とは本当に恐ろしいものだ。

実は先ほど藤原景裕がメニューを受け取った時、自分も無意識に手を伸ばそうとしていた。

以前、藤原景裕と一緒にいた頃は、レストランに行くたびに、藤原景裕はメニューを自分の前に置いてくれていた。

あの頃、自分と藤原景裕にとって、テーブルの上の料理は自分が好きなものと、自分が好きではないものに分かれていた。

村上念美が食べたくないものは脇に置かれ、それは藤原景裕が食べるものになった。

そして村上念美が好きで食べ残したものも、藤原景裕が食べることになった。

あの頃、村上佑城はよくそれを見かねて、村上念美を諭し、藤原景裕をそんなに虐めないようにと言っていた。

村上念美は小さな口を尖らせ、気にしない様子だった。藤原景裕はただ笑って受け流すだけだった。仕方がない、この女性の気まぐれな性格は、自分が甘やかして育てたものだった。

実際、藤原景裕は物事に対して極めて忍耐強い人間ではなかったが、村上念美に対しては、自分のすべての注意と忍耐を注いでいた。

……

助手はメニューを受け取ると、大役を任されたかのように緊張した。

藤原さんが自分に注文を任せたのだから、助手も馬鹿ではない、当然村上念美の好物を注文すべきだと理解していた。

助手は自分の記憶を頼りに、村上念美の好きな料理を数品注文し、さらに看板料理も数品加えてからウェイターにメニューを返した。

その後、助手は慎重に藤原景裕の方を見て、彼の表情を探った。藤原景裕の表情に変化がないのを見て、ようやく安心した。

仕事は守られたようだ。

本来、今日のこの会食は藤原さんは出席するつもりはなかったが、佐々木文彦が村上氏のエッセンシャルオイルの原料供給を断ったと聞き、村上お嬢様がきっと訪ねてくるだろうと予想して、承諾したのだった。

実際、藤原景裕の予想は的中していた。

村上念美は確かに訪ねてきていた……

助手は密かに不思議に思っていた。藤原さんは常人を超える仕事量でフランスでの一ヶ月の仕事を一週間でこなし、昨日空港から戻るとすぐに南町別荘へ向かった。

しかし、今朝会社に行くと、藤原さんが一人で会社の窓際に立ち、傍らには灰皿いっぱいの吸い殻が積み上がっていた。

その苦さを、助手は見て取った。藤原さんの疲労は、言葉にするまでもなく明らかだった。

……

料理がテーブルに並んだ。

村上念美はあまり食欲がなく、箸を少し動かしただけで立ち去ろうとした。

藤原景裕は黒い瞳を細め、村上念美がほとんど手をつけていない料理を見回し、その後責めるような視線を助手に向けた。

その意味は明らかだった。「お前は何を注文したんだ?」

助手は藤原景裕の責める視線を受け、心臓がドキドキと鳴った。

村上念美は藤原景裕と助手のやり取りに気づかず、今個室の中で極度の圧迫感を感じていた。

佐々木文彦や佐々木萌那のような人々と関わりたくはなかったが……藤原景裕は……

村上念美の脳裏に昨夜の二人の親密な瞬間が一瞬よぎった。今朝目覚めた時、首筋にはまだ昨夜藤原景裕が残したキスマークが見えていた。

……

佐々木萌那は気まずい雰囲気を感じ取り、積極的にワイングラスを持ち上げ、笑顔で言った。「藤原さん、乾杯しましょう……」

「結構です。私は酒を飲みません」

藤原景裕は手を振り、態度は断固としていた。佐々木萌那は少し気まずそうだったが、諦めなかった。

「大丈夫です、お酒は体に悪いですから」

「そういえば、念美、中学生の頃、あなたはクラスで一番明るい女の子だったわね」

村上念美はその言葉を聞いて心がドキリとした。どうやら善意からの発言ではないようだ。

「藤原さん、ご存知ないでしょうが、あの頃、あなたは高校部でとても魅力的で、クラスの多くの女の子があなたに夢中だったんです。あの頃、念美は他の子たちがあなたのことを好きだと騒いでいるのを見て、あなたを自分のものにして、忠実な彼氏に育てると宣言していたんですよ」

村上念美:「……」

まずい。

村上念美はその言葉を聞いて顔色が変わり、無意識に藤原景裕の方を見た。当時、自分は腹立ちまぎれに藤原景裕を追いかけると言ったのだが、実際には男女の関係というのはそういうものだ。行ったり来たりしているうちに……藤原景裕に夢中になってしまった。

しかし藤原景裕はいつも誇り高く、もし自分が最初は賭けや遊びのつもりで彼を追いかけたことを知ったら。

村上念美は藤原景裕が激怒するかもしれないことを想像するのも恐ろしかった。

個室全体が佐々木萌那の言葉によって奇妙な静けさに包まれ、まるで針が落ちる音さえ聞こえるようだった。

村上念美は表情の読めない端正な顔の藤原景裕を見つめ、ゆっくりと口を開いた。「佐々木萌那、あなたも言ったでしょう、それは中学生の頃の話よ。あの頃は若くて、多くのことは真剣に受け止められないわ。それに、私はあなたと昔話をするほど親しい関係だとは思っていないわ」

「私はただ藤原さんがここにいらっしゃるのを見て、当時の当事者として、藤原さんと少しお話ししただけよ」

佐々木萌那は無邪気で甘えた様子を装い、その後口を覆って驚いたふりをして藤原景裕を見た。「あら、藤原さん、もしかしてこのことをまだご存知なかったのですか?」

藤原景裕の黒い瞳に鋭い光が走り、薄い唇を引き締め、冷たく言った。

「出て行け……」

佐々木萌那は顔色を変え、無意識に村上念美の方を見た。もしかして藤原景裕は真実を知って村上念美に出て行けと言ったのだろうか?

佐々木文彦は内心喜んだ。どうやら佐々木萌那と藤原景裕には可能性があるかもしれない。

もし藤原景裕という大物と縁を結べれば、これからの佐々木家は順風満帆になるだろう。