来春さんが去った後、リビングには藤原景裕と村上念美の二人だけが残った。
まあ、ボスは数に入れないけど。
村上念美は昨夜の熱い場面を思い出し、少し気まずさを感じていた。
確かに...あの時は意識が朦朧としていて、ほとんど覚えていないのだけれど。
でも、自分から男性に近づいていったこと、そしてソファに押し付けられ、その後は極めて親密な姿勢で男性の腰に跨っていたことは、かすかに覚えている...
村上念美は気まずさを堪えながら朝食を食べ終えると、箸を置いて言った。「藤原さん、食べ終わりました。先に行きますね。」
「ああ。」
藤原景裕はさらりと返事をし、黒い瞳を細めて村上念美が落ち着かない様子でドアへ向かう姿を見つめながら、かすかに口角を上げた。
ボスは興奮して村上念美の後をついて行き、一緒に出勤しようとしていた。
「ワンワン。」
ボスが尻尾を振って非常に熱心な様子を見て、村上念美は仕方なく言った。「いい子ね、私は仕事に行かなきゃいけないの、遊んであげられないわ。」
「アウゥ...」
村上念美はボスが泣きそうな顔をしているのを見て、思わず笑った。
「来春さんのところに行きなさい...いい子。」
ボスは村上念美の言っていることを理解したかのように、彼女が指さす方向へ素早く走っていった。
村上念美はそのまま運転席に乗り込み、車を発進させた。
...
ボスが再び走り出てきた時には、すでに村上念美の姿は見えなくなっていた。すぐに悲しげな様子で、再び藤原景裕の方へ走っていった。
「ワンワン、アウゥ...」
藤原景裕は目の前で興奮しているボスをさらりと一瞥し、唇を引き締めて言った。
「彼女が行ってしまったのは、お前だけが悲しいわけじゃない。」
ボスは半分理解したような様子で藤原景裕の足元に伏せ、彼の足にすり寄った。その意味は明らかだった。「僕にはあなたしかいないから、行かないで」と。
藤原景裕はゆっくりと立ち上がり、大きな手でボスの頭を撫でながら、唇を引き締めて言った。
「昼には、来春さんに連れて行ってもらって、彼女に会いに行くといい。」
「ワンワン。」
ボスは藤原景裕の言葉の意味を理解したかのように、大興奮した。
藤原景裕は黒い瞳を細めた。ボスは自由に制限なく村上念美に会いに行けるのに、時には人間は犬にも劣るものだな。
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