病院のロビーは人々で賑わっていたが、村上念美の足はまるで根を張ったかのように動かなかった。
村上念美はよく見ると、藤原景裕が抱いている子供はピンク色のセーターを着た、2、3歳くらいの女の子だった。その顔ははっきりと見えず、藤原景裕の大きな体に隠れていた。そして、彼の横にいる女性は背が高く、乳白色のダウンジャケットを着て、とても優しげで清楚な印象だった。
彼らは小児科の方向へ歩いていき、村上念美がよく見る間もなく、遠ざかってしまった。
村上念美の顔色が少し青ざめた。普段は氷のように冷たい藤原景裕が、抱いている子供に対して珍しく優しい表情を見せていた。その子供への気遣いは...偽りようがなかった。
そして、その女性は藤原景裕と子供を見つめる顔に優しさと気遣いが満ちていた。
どう見ても三人家族のようだった。
藤原景裕と幼なじみとして過ごしてきた年月の中で、男の周りの友人たちについては、村上念美もある程度知っていたが、この母娘については全く記憶がなかった。
おそらく自分がいなかったこの3年の間に、突然現れた人たちなのだろう。
村上念美は視線を戻したが、小さな手は気づかれないように握りしめていた。
景山瑞樹は隣にいる村上念美に視線を落とし、女性の顔色がよくないのを見て、黒い瞳を細めた。
村上念美は本当に謎めいた女性だった。藤原景裕と木村陽太の間を行き来している。
村上念美が帰国した後、大きな波紋を起こすと思っていたが、意外にも、彼女は結婚していた。
木村陽太と出国した日付から計算して、さらに村上念美が否定しなかったことから、景山瑞樹は自然と村上念美が木村陽太と結婚したと考えていた。
木村陽太と結婚したのに、藤原景裕の心を乱している。
ついでに...自分の心までもすっかり魅了されてしまった。
くそっ、景山瑞樹もこの女性がどんな魔力を持っているのか知りたかった。
「もう見るな、お前の元カレはもう遠くに行ったぞ」
村上念美:「……」
ふざけるな、元カレだと?
隣の景山瑞樹の酸っぱい言葉を聞いて、村上念美は我に返った。
「黙っていれば誰もお前を唖だとは思わないよ」
「藤原景裕が元カレだって?俺は今、お前の元夫の方に興味があるんだがな」