070 彼女が口を開けば、自分は承諾するだけ

書斎にて:

男の黒い瞳は深く、村上念美はますます落ち着かなくなった。悲しいと言えば藤原景裕が自分を心配してくれるかもしれないと分かっていても、念美はもうこの件について話を広げたくなかった。

「最初は子供を使って結婚を迫ったことで、ずっと彼を利用したような気がしていました。今さら言うとぶりっ子っぽく聞こえるかもしれませんが、子供がいなくなったことで少し安心しました。お互いにとって新たな始まりのきっかけになるかと思います」

藤原景裕の整った顔に特に表情の変化が見られないのを見て、村上念美は美しい瞳を伏せ、空気は沈黙に包まれた。

新たな始まり、念美はそれが景裕にとってどれほど難しいことか分かっていた。

特に当時の真実を彼は知らないのだから。

皆の目には、自分が木村陽太と駆け落ちしたように映り、彼に大きな恥辱を残した。今、陽太が戻ってきて、自分がここで藤原景裕に新たな始まりを求めるのは、特に景裕のような誇り高い人間にとっては、無理難題だろう。

村上念美は長い間藤原景裕からの返答を得られず、ゆっくりと口を開いた。「もう遅いので、先に部屋に戻ります」

念美が体を回すと、小さな顔には少し寂しさが浮かんでいた。まだ一歩も踏み出さないうちに、手首が隣の男に掴まれた。

「いいよ」

村上念美の美しい瞳が一瞬凍りついた。しばらくしてから、藤原景裕が自分の言った「新たな始まり」に同意したことに気づいた。

念美は唇の端を上げ、心の高鳴りを隠しきれず、手首の温かい感触も気にせず、目の前の相変わらず冷たく、人の心を奪う男を驚きの表情で見つめた。

「本当ですか?」

「これからはボスに触れるな、汚らわしい」

村上念美:「……」

これは……

「お前の10分は終わりだ、出て行っていい」

村上念美:「……」

まあいいか。

念美は唇の端をつまみ、やはり藤原景裕にあまり期待できないと思った。

「わかりました……藤原さん、では先に寝ます」

「ああ、来春さんが午後に燕の巣を煮込んだが、俺は食欲がない。お前が飲んでくれ、無駄にするのは好きじゃない」

「はい……」

藤原景裕から男が食べないものを押し付けられたが、村上念美はそれでも嬉しそうに書斎を後にした。藤原景裕の瞳の色がわずかに動いた。

黒い瞳に深い感情が染み込み、女性が去った後、際限なく広がっていった。