藤原景裕は村上念美を心配して、彼女を支えながらエレベーターから出た。念美に道を尋ねる必要もなく、正確にオフィスの場所を見つけた。
念美の置かれている環境については、自分が誰よりも詳しく理解していた。
レイアは来訪者を見て驚いたが、念美の一瞥で落ち着いた。
レイアは素早く秘書部の見物人たちに仕事に戻るよう指示した。
わぁ……さっき見間違えたかもしれないけど、藤原社長を見たわ。
実物はもっと気品があって、もっとかっこいいわね。
……
「気を散らすな、歩くことに集中しろ」
男性の声は冷たく、笑顔もなかった。念美は内心舌打ちした。自分が何を考えているか、藤原景裕はすべて知っているようだった。
「はい」
念美は口元に微笑みを浮かべた。後でレイアに指示して、最上階の秘書部の人たちに余計な話をしないよう伝えなければならない。
……
藤原景裕は念美を支えながらオフィスに入った。シンプルで洗練された配置で、二鉢の植物が置かれ、デスクの上は書類で埋め尽くされていた。
それだけでなく、デスクの横の壁には付箋がびっしりと貼られており、すべて念美が自分のスケジュールを思い出すためのものだった。
藤原景裕は黒い瞳を少し顰めた。新しく引き継いだ村上氏は念美にとって厄介な状況で、問題が山積みだった。
この山積みの書類は、念美のペースでは、いつ終わるか分からない。
藤原景裕は念美をオフィスチェアに座らせ、薄い唇を引き締めた。
「村上氏の財務報告書を見せてくれ。藤原氏が投入した資金の行方を知りたい」
「……はい」
念美は美しい瞳を見開いた。藤原景裕が突然財務報告書を見たいと言うとは思わなかった。忙しいと言っていたのではないか?
忙しいなら、もう行くのではないか?
念美の瞳にまだ困惑の色が見えると、藤原景裕は淡々と眉を上げて言った。「藤原氏が投入した資金について、私には知る権利がある。どうした、問題でもあるのか?」
「いいえ」
念美はオフィスチェアに座り、素早く手を伸ばしてレイアの内線に電話をかけた。
「レイア、村上氏の今週の財務報告書をできるだけ早くまとめて持ってきて。藤原社長が見たいそうよ」
「はい、村上お嬢様」