「あなた...来るべきじゃなかったのに...両親を連れて旅行に行くべきだったのに。」
自分の手首が男性にとても強く握られていることに気づき、昨日傷ついた手のひらはもう痛くないように感じた。男性の動作に安心させられたからだ。
「君のために何かしたいんだ...君を愛したい...脅されるのを見たくない、両親を守りたい、これ以上悪を見逃して君を失いたくないんだ。」村上念美は口元に甘い笑みを浮かべた。
「あの時...あのことを隠していたのも、あなたたちを守るためだったの...隠し続けてもあなたたちを守れなくなったなら、真実を話した方がいいわ。」
村上念美が明るく笑えば笑うほど、目尻の潤みがより一層目立った。
藤原景裕:「...」
藤原景裕ののどぼとけが動き、黒い瞳には深い光が宿っていた。
彼女はなんて馬鹿なんだ...
3年前、彼女は突然去り、真実を隠したのは自分を守るためで、多くの人の非難を背負った。
3年後、彼女は戻ってきて、今真実を公表することを選んだのも、自分を守るためだ。
この馬鹿な女の子。
藤原景裕が黙っているのを見て、村上念美は涙ぐみながら自ら口を開いた:「景裕兄さん...あなたはどうして、ここに来たの?」
「彼女を告発するために来た。」
村上念美:「...」
村上念美の瞳が微かに震えた。
藤原景裕がここに来たのは...熊谷紗奈の罪を告発するつもりだったのだ。
なるほど...男性が自分を守ると言い、熊谷紗奈に傷つけられないようにすると言ったのはそういうことか。
そういうことだったのね。
でも彼には証拠があるのだろうか?
当時の事は複雑で...自分が自首しても、十分な確信はない。
木下警官は村上念美と藤原景裕の会話を聞いて、思わず口を開いた:「この事件は本当に難しいですね...藤原さん、あなたが告発しようとしているのはあなたの実の母親ですよ。」
「それに、藤原さん、あなたがこうすることは...世間の大義に反することになりますよ...」
結局のところ、これは倫理的な問題に関わっている。
実の息子が自分の母親を告発するなんて、どこにあるだろうか?
...
木下警官の言葉は、明らかに村上念美の心を突いた。
そうだ...
藤原景裕がこうしたら、間違いなく世間から背骨を指さされることになる。