熊谷紗奈:「...」
心美という二文字に、熊谷紗奈の顔色が一気に青ざめた。
木下麻琳は紗奈の異変に気づかず、ただ彼女の体が強張っているのを感じただけだった。
「ただ...ただあの老夫婦の年齢を考えてあげてください。」
「そんなはずがない!」
「私...私は心美なんて人、全然知らないわ。あなたが嘘をついている、大げさに言っているだけよ。」
木下麻琳:「...」
なぜか、熊谷紗奈のこの言葉を聞いて、麻琳は直感的に女が嘘をついていると感じた。
彼女は絶対に知っているはずだ。
女の声が異常に震えていることからして、ただ助けたくないだけなのだろう。
人の心というのは本当に腹の中では分からないものだ。他人の実の父母の家に長い間居座っておきながら、今になって助けようともしない。まったく改心する気がないのだ。
「ふん。」
木下麻琳は頷いた。これ以上話しても無駄だ。
熊谷徹朗と渡辺愛美の老夫婦が可哀想だと思って、手助けしようとしたのに。
誰が知ったことか、この熊谷紗奈は何を言っても聞く耳を持たない。
...
木下麻琳と村上翔偉が病室を出るとすぐ、熊谷紗奈は怒りが収まらず、すぐそばのテーブルの上の手当たり次第のものをすべて床に押し落とした。
「そんなはずがない...彼らが真実を知るはずがない、絶対にそうだわ。」
「出て行け...みんな出て行きなさい...見ているだけでイライラする。」
医療スタッフは口元をゆがめた。この女性に二日間も仕えて、本当に嫌になっていた。
警察官も同様に頭を悩ませていた。この厄介者は死に際になっても素直に白状しようとしない。本当に図々しく、人を嫌な気持ちにさせる。
医療スタッフは目の前の老女を不機嫌そうに一瞥した。素直にしないなら、隔離して鎮静剤を注射するしかないだろう。
...
村上翔偉は木下麻琳に付き添って警察署へ直行した。
村上念美は比較的自由に行動できた。警察署を離れず、捜査に協力する限り、問題なかった。
朝、藤原景裕が一緒に朝食を食べた後、彼は仕事に行き、念美は花壇のベンチに座って日光浴をしていた。人が花よりも美しい光景だった。
天気はまだ寒かったが、冬の暖かい日差しは人を温かく包んでいた。