「もし何も用がなければ、先に帰っても良いわよ...安心して、文音の治療費は、藤原さんがすべて支払ってくれたから、彼が私の後顧の憂いを解決してくれたの」
村上念美は知っていた...適合する骨髄を必要とする病気は当然高額な費用がかかるし、笹木愉伊は幼稚園の先生で、それを負担できるはずがない。
「私の兄の弔慰金はすべて文音の治療に使ってしまったわ...藤原さんの助けに本当に感謝しているわ。彼に伝えてくれる?私はもう考えがまとまったから、私と文音のことを心配しなくていいって。彼は私と笹木静香に何も負い目はないの。私たちに借りがあるのはあの男よ」
村上念美:「...」
笹木愉伊の言葉が、自分にはますます理解できなくなっていた。
でも、藤原景裕なら必ず理解できるはずだ。
村上念美は頷いて、自ら口を開いた:「わかったわ、笹木愉伊さん、伝えておくわ」
「うん」
笹木愉伊はすでに帰ってほしいという意思を示していたので、村上念美がこれ以上留まっても意味がなかった。少し躊躇した後、階段の方向へ歩き始めた。
笹木愉伊は村上念美の華奢な後ろ姿を見つめ...口元に淡い笑みを浮かべた。
もし彼女があの人の妹でなければ。
もしかしたら...自分と村上念美は友達になれたかもしれない。
...
村上念美は病院を出ると、直接車で藤原氏へ向かった。
行く途中ずっと考え続けていたが...結局はっきりとした答えは見つからなかった。
何となく、自分は迷宮に入り込んでいるが、もうすぐ解き明かせそうな気がしていた。
...
藤原氏:
村上念美が藤原景裕のオフィスに着いたとき、彼が真剣に書類に目を通している忙しそうな姿が見えた。
微笑みながら、村上念美は自ら小さな手でオフィスのドアをノックした。
藤原景裕はいつも警戒心が強い。
今日は自分がドアの前まで来ているのに、彼がまだ気づいていないなんて、本当に普通ではない。
「入っていいかしら?藤原社長...」
「ああ」
藤原景裕は軽く頷き、村上念美の姿を見ると、眉間の皺がゆっくりと解けていった。
村上念美の前では、自分は決して眉をひそめず、自分の感情が彼女の気持ちに影響しないようにしていた。
「村上氏に行くって言ってなかったか?どうしてここに来たんだ?」
藤原景裕は立ち上がり、素早く前に出て村上念美を抱きしめた。