麗水ベイタウン。
「この魔王あさねって誰だ?お前でさえ勝てないのか?」
向井涼太は厳谷君彦が買ったばかりの参考書を手に持ちながら、すでに魔王あさねの名を耳にしていた。
厳谷君彦よりも百倍も優れた数学の天才だと言われ、さらに恐ろしいことに……その人物はなんと女子生徒だという。
「うちの一中に転校してくるらしいから、そうしたら誰なのか分かるさ」
厳谷君彦はかなり期待しているようで、言い終わると参考書を取り戻し、階段を上がって真剣に研究し始めた。
向井涼太と厳谷究の二人はソファに寄りかかっていた。前者はスマホを見つめ、後者はまだ「妖精さん」のことを考えていた。「妖精さん」が深井花月だと分かっていても、なぜか厳谷究はずっと何かがおかしいと感じていたが、それが何なのかは言えなかった。