案の定、その男子の勢いはすぐに弱まり、恨めしそうに青木朝音を睨みつけると、踵を返して走り去った。
一家揃って大物だなんて、関わるのは無理だ、避けるしかない!
本来ならまだ何人かの男子が告白や手紙、プレゼントを渡しに来るつもりだったが、みな尻込みしてしまった。
しかし、命知らずの一人が前に出てきてサインをお願いした。弱々しい声で言った。「サインをもらえませんか?僕は特に『一筋の微光』と『終末日』の二曲が大好きで。」
一人が先陣を切ると、すぐに数人がサインをもらいに近づいてきた。男子も女子もいた。
「僕の女神は芸能人じゃないんだ、何のサインだよ?みんな退けよ、邪魔するな!」北川麟兎は甘えた口調ながらも威圧的だった。
青木朝音は礼儀正しく微笑み、少しも高慢な態度を見せなかった。「ごめんなさい、サインはしません。」
「うわぁ、青木朝音の笑顔すごく綺麗だな、僕の女神!」男子たちは春の陽気に浮かれていた。
北川麟兎はすぐに目を細めて睨みつけた。僕の女神を奪おうだなんて?うちの家族総出で叩きのめすぞ?
青木朝音は物憂げに校舎へ向かいながら、冗談めかして北川麟兎に言った。「あなた、私のボディーガードになれるかもね。」
北川麟兎は青木朝音のスケートボードを抱えながら、その言葉を聞いて目を輝かせた。「本当にいいの?給料なんていらないよ。」
わんわんわん、僕が母上様のボディーガードになれるなんて、超嬉しい!
青木朝音は少し笑うと、また言った。「ハスキー犬を飼ったことある?」
北川麟兎は意味が分からず首を振った。「ないよ。」
青木朝音は意地悪く唇を曲げた。「あなた、似てるわね。」
そう言って教室に入ってしまった。
そのため、北川麟兎はその日の授業中ずっとハスキー犬の問題について考えていた。丸二時間悩んだ末、ようやく勇気を出して青木朝音に小さな紙切れを渡した。
青木朝音が開いてみると、そこには【僕はハスキー犬のわんわんわん、飼い主さん僕を飼ってくれる?すごく飼いやすいよ。】と書かれていた。
青木朝音:「……」何これ?
その後、また一枚の紙切れが飛んできた。
今度はこう書かれていた:【僕は飼い主さんに頭を撫でてもらうだけでいいの、そうすれば一日中幸せだよ。】
青木朝音:これは一体どんな可愛い子なの?
本当にハスキー犬なのかな?