しかし思いもよらず、またこんな事態になるとは。伊藤欣禾は嫌悪と怒りに満ちた表情で青木朝音を見つめて言った。
「あなたって本当に厚かましいわね。私の兄が格好いいからって、そんな恥知らずな誘い方をするなんて。誘惑に失敗したからって兄の手を傷つけるつもり?幸い脱臼しただけで骨折しなかったけど、そうじゃなかったら刑務所行きよ!」
「何か誤解があるんじゃないかしら?朝音さんがそんなことするはずないわよね?」
深井蓉悠は眉をひそめ、困惑した様子で青木朝音を見て、それから伊藤航太の方を見た。
すると青木朝音が突然軽く笑い、皮肉っぽく言った。「ふん、私が彼を誘惑したって?」
「聞いた?聞いた?彼女、認めたわよ!」伊藤欣禾はすぐに青木朝音を指さして叫び始めた。
深井蓉悠の目が光り、すぐに憤然として叱責した。「朝音さん、あなた本当に航太を誘惑したの?どうしてそんな愚かなことができるの?」
「だから、またお父さんに電話して、私を叱りつけるように呼び戻すつもり?」
青木朝音は腕を組み、椅子の背もたれにゆったりと寄りかかり、意地悪そうな笑みを浮かべた。
深井蓉悠は言葉に詰まった。確かにそのつもりだったが、今は恥ずかしくて電話できなくなり、代わりに優しい声で諭した。「電話しないわ。自分で過ちを認めて、航太に謝ったらどう?」
「なぜ私が彼に謝らなきゃいけないの?」青木朝音は無関心そうに笑ったが、その桃花眼は骨身に染みる冷たさを漂わせていた。
「私の兄を誘惑して失敗した上に怪我までさせたからでしょ!」伊藤欣禾は正々堂々と言い返した。
「彼の一方的な言い分だけで、私が誘惑したって?証拠はあるの?」青木朝音は興味を示した。
「これは昨夜彼女が私にくれたラブレターよ。こっそり彼女の部屋に行って会うように誘ってきたけど、もちろん行かなかった」
伊藤航太はズボンのポケットからピンク色の便箋を取り出し、伊藤欣禾に渡した。
伊藤欣禾はその内容を見て、価値観が崩れるような感覚を覚え、すぐに大声で読み上げた。
「人混みの中でもあなたの高ぶるホルモンの匂いがわかるわ。きっと私、あなたに恋してるのね。今夜、深い交流ができることを願ってる。必ず来てね〜〜愛してる、朝音ちゃんより」