競売会のことを思い出すと、古川松陰はすぐに後悔した。もし彼も競売会場に行っていれば、男装した忘憂が彼の妻だと一目で分かっただろう。
ちょうどその機会に彼女の忘憂の匂い袋をすべて落札できたのに。
「匂い袋はまだあるの?」古川松陰は急いで尋ねた。
「欲しいの?あなたも眠れないの?」青木朝音は問い返した。
「欲しいよ」古川松陰は笑いながら、期待を込めて彼女を見つめた。
「あなたの態度が良かったから、一つあげる」というような言葉が聞けると思ったが、結果は…
「欲しいなら、安く一つ売ってあげるわ」
古川松陰の表情は一瞬凍りついたが、最終的に不本意ながら「いいよ」と一言だけ言った。
しかし結局、青木朝音は彼に一つ投げ渡したが、お金は取らなかった。
自分の親友から何のお金を取るのか、そんな他人行儀なことはできない。