競売会のことを思い出すと、古川松陰はすぐに後悔した。もし彼も競売会場に行っていれば、男装した忘憂が彼の妻だと一目で分かっただろう。
ちょうどその機会に彼女の忘憂の匂い袋をすべて落札できたのに。
「匂い袋はまだあるの?」古川松陰は急いで尋ねた。
「欲しいの?あなたも眠れないの?」青木朝音は問い返した。
「欲しいよ」古川松陰は笑いながら、期待を込めて彼女を見つめた。
「あなたの態度が良かったから、一つあげる」というような言葉が聞けると思ったが、結果は…
「欲しいなら、安く一つ売ってあげるわ」
古川松陰の表情は一瞬凍りついたが、最終的に不本意ながら「いいよ」と一言だけ言った。
しかし結局、青木朝音は彼に一つ投げ渡したが、お金は取らなかった。
自分の親友から何のお金を取るのか、そんな他人行儀なことはできない。
古川松陰は大喜びした。やはり妻は彼を大事にしているのだ。
それに、彼のお金は彼女のお金ではないか?彼自身も含めて、すべては彼女のものだ。
「ほら、このカードを使って。限度額なしだから、好きなだけ使って」
古川松陰は自分の黒いカードを取り出し、威勢よく彼女に投げた。
青木朝音はそれを手に取って一瞥し、躊躇なく投げ返した。「侮辱してるの?」という表情で「必要ないわ」と言った。
古川松陰は彼女を説得できず、怒らせるのを恐れて、仕方なく黒いカードをしまい込んだ。現在の事件について考え、「この数日間で証拠を集めて、三日後の裁判であなたの潔白を証明するよ」と言った。
「そんな面倒なことしなくていいわ。女装に戻れば済むことよ」青木朝音は頭を抱えて言った。
こんなことが起こるとわかっていたら、最初から男装ではなく女装の変装をすべきだった。
「正体を明かすつもりなの?」
古川松陰は少し驚いた。彼女が正体を明かしたくないから…警察署で一晩拘留されても、自分が女性であることを明かさなかったのだと思っていた。
「うん」青木朝音は軽く返事をし、疲れた様子で目を閉じた。
彼女はもう追い詰められていた。真田千晴がどうしても彼女と敵対するなら、いっそのこと正体を明かして、真田千晴に彼女の手段がいかに愚かで卑劣かを知らしめてやろう。
女が女をレイプできるわけがない?笑わせる。
……