「帰ってきたの?」
古川松陰は頭を傾げ、目を細めて彼女を見つめていた。その細い瞳には奥深い光が宿り、指先から立ち上る煙の中、この姿はどこか愛らしさを感じさせた。
青木朝音は目を深く沈ませた。くそっ、この色気のある男、また何気なく人を誘惑している。
無意識の誘惑が最も致命的だということを知らないの?
「うん」朝音はそっけなく返事をし、だらしなく歩いて彼の前に立った。「すみません、どいてもらえますか」
松陰は低く笑い、ようやく立ち上がって椅子をどかした。
朝音は隠すことなく、素早くパスワードを入力してドアを開け、部屋に入った。松陰の視線がパスワードロックから離れるのを見て、彼も後に続いて部屋に入ってきた。
「お風呂に入ってくるから、あなたは好きにして」朝音はそう言い残すと、部屋に行ってパジャマを取り、バスルームに向かった。