第2章 神様を懐に引き入れる(2)

どの言葉が髙橋綾人を刺激したのかは分からなかったが、森川記憶の言葉がまだ終わらないうちに、髙橋綾人の瞳の色が突然深くなり、その奥底に何かの火花が広がっていた。森川記憶がさらに言葉を続ける間もなく、髙橋綾人は突然彼女の手首を掴み、彼女を近くの路地に引きずり込んだ。

髙橋綾人の足取りは速く、すぐに二人は人気のない路地の奥に到着した。我に返った森川記憶は無意識に口を開いた。彼女が「髙」という一文字を言ったところで、髙橋綾人は突然手を返し、彼女を力強く斑模様の古い青レンガの壁に投げつけた。「いくらほしい?」

森川記憶の背中が壁にぶつかった痛みが強すぎたのか、それとも髙橋綾人の唐突な言葉があまりにも理解しがたかったのか、森川記憶はまるで呆けたように、しばらくの間ぼんやりと立ちすくみ、反応することができなかった。

「金額を言ってくれ?」髙橋綾人はまた口を開いた。

彼に返ってきたのは依然として沈黙だけだった。

髙橋綾人は眉間にしわを寄せ、さらに2秒ほど待った。森川記憶がまだ話す気配を見せないのを見て、まるで忍耐を失ったかのように、突然手を上げて森川記憶のドレスの襟元に伸ばし、素早く力を入れた。「ビリッ」という音とともに、森川記憶の胸元の服が無理やり真っ二つに引き裂かれた。

初夏の夜、気温はやや低く、胸元の冷気に森川記憶は全身を震わせた。その後、彼女はゆっくりと黒い瞳を動かし、髙橋綾人の目と向き合った。

少年の表情は冷淡で、彼女の視線を感じると、まぶたを持ち上げて無関心に彼女を一瞥し、そして彼女の注視の中、視線を彼女の胸元の露出した大きな肌の部分へと移した。

彼は無表情でしばらく冷ややかに見つめ、冷たい声で言った。「分かったか?たとえお前が裸で俺の前に立っても、俺はお前に少しの興味も持てないんだ!」

彼の冷たくも美しい声とともに、森川記憶の目には衝撃が広がった。

夜風が吹き過ぎ、胸元の冷たさに彼女は後になって気づいた。彼女は素早く自分の破れた服を引っ張り、何とか自分の体を隠した。

「あの夜、酒を飲んでいなかったら、俺がお前に触れると思うか?」髙橋綾人はまだ言い続けていた。

森川記憶の指先が激しく震え、無意識に服をきつく握りしめた。力を入れすぎて、手の甲の青筋が浮き出ていた。

そうか、あの夜彼女が思っていた熱い愛情は、ただ彼の酔った後の失敗だったのだ。彼女は勝手に思い込んで、自分で自分を騙していたのだ。

そうか、事の真相はこういうことだったのだ。

そうか、天国から地獄へ落ちるのに、ほんの一瞬しかかからないのだ。

「正直に言うと、あの夜、俺は自分が誰に触れているのか全く分からなかった」この瞬間、周りのすべてが森川記憶から離れていくようで、彼女だけが取り残された。髙橋綾人の声は、まるで別の時空から伝わってくるように遠く、鋭く傷つける力を持っていた。「だから金額を言ってくれ、あの夜いくらなら、お前は俺と清算して、何も起こらなかったことにしてくれるんだ?」