第51章 黙れ(1)

森川記憶は森川叔母さんのすぐ隣に座り、テレビの音を通して、自分の携帯電話から髙橋綾人の礼儀正しい声がはっきりと聞こえてきた。「森川おばさん、こんにちは」

森川記憶の聞き間違いかもしれないが、髙橋綾人の声はかすかにかれていて、弱々しさが漂っていた。

森川叔母さんもそれに気づき、心配そうな表情で急いで声をかけた。「綾人、どうしたの?声がおかしいけど、病気?」

「いいえ、今起きたところです」髙橋綾人は喉をクリアして、相変わらず上品で礼儀正しい声で答えた。

「それならいいけど...」森川叔母さんは明らかにほっとして、それから本題に入った。「...実はね、綾人、森川おじさんが先日出張から帰ってきて、輸入栄養剤をいくつか持ち帰ったの。あなたが京都にいるから、あなたの分も取っておいたのよ。ちょうど今日記憶ちゃんが帰ってきたから、彼女の住まいがあなたの近くでしょう?彼女に届けてもらおうと思うんだけど、いつ都合がいい?記憶ちゃんに届けてもらうわ」

おそらく叔母さんへの配慮からか、髙橋綾人は叔母さんが彼女に届けてもらうと言ったことに対して、少しの不快感や嫌悪感も見せず、相変わらず上品で礼儀正しい口調で答えた。「いつでも構いません」

森川叔母さんは髙橋綾人がそう言うのを聞いて、勝手に時間を決めた。「じゃあ、この後はどう?栄養剤には賞味期限があるし、明日記憶ちゃんが授業で忙しくなって時間がなくなるといけないから」

「ありがとうございます、森川おばさん」

「どういたしまして」森川叔母さんは髙橋綾人の礼儀正しい態度に喜んで、電話を切る直前に、住所を聞くのを忘れていたことに気づき、もう一言付け加えた。「綾人、後で住所を送ってね、このスマホの番号に。これは記憶ちゃんの番号よ」

電話を切ってから、半分もしないうちに、森川記憶の携帯電話が「ピンポン」と鳴った。

それは叔母さんが先ほど言った11桁の番号からのメッセージで、マンションの名前と棟番号以外に、余計な言葉は一切なかった。まさに髙橋綾人らしい行動スタイルだった。

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