彼女の何気ない愚痴が、彼に密かに学ぶ決意をさせた。他でもない、ただ彼女の役に立ちたいという思いからだった。
その後の彼は、確かに彼女の助けになった。母親はほぼ毎日彼女を家に夕食に招き、彼女はたいてい彼の家で宿題をしていた。彼は彼女が書斎にいない時に、こっそり忍び込んで彼女の教科書を開き、重要なポイントに印をつけて、彼女の学習の負担を軽くしようとした。
高校2年生で文系と理系に分かれ、髙橋綾人と森川記憶は共に理系だった。髙橋綾人は高校1年生の時に成績が急速に上がったため、彼と彼女は同じクラスになった。
彼と髙橋綾人の席は遠く離れており、二人はやはり交流がほとんどなかった。
しかし一中の高校2年生は、高校1年生よりも学習負担が増え、夜の自習が始まった。毎晩9時半、森川記憶は一人で自転車に乗って帰宅していた。