その夜、髙橋綾人は一人でカラオケボックスでたくさんのお酒を飲み、長い間タバコを吸っていた。彼がみすぼらしい姿で家に帰ったとき、ちょうど森川記憶が眠っている髙橋余光に毛布をかけているところだった。彼女が余光の部屋から出てきたとき、彼とばったり鉢合わせた。彼女はまだ怒っていて、以前のように礼儀正しくも冷たく「高橋くん」と呼ぶこともなく、ただ無視して髙橋余光の寝室のドアを閉め、彼の肩をかすめて、振り返ることもなく立ち去った。
あれは彼と彼女の初めての冷戦だったのだろう。丸々半月続いた。その半月の間、彼の気分は最悪で、一度も笑顔を見せなかった。以前なら授業が終わるとすぐに集まってくる仲間たちも、その期間はできるだけ彼から離れていた。うっかり巻き込まれないようにと恐れていたのだ。
彼と彼女が再び言葉を交わしたのは、竹田章のせいだった。
その日、彼が家に帰ると、階段を上がったところで、森川記憶が髙橋余光に向かって悲しそうな声で言っているのが聞こえた。「余光お兄さん、あの竹田章がどれだけ嫌なやつか分からないわ。最近しつこく私を困らせてくるの。今日は特にひどかった。私のことを下品だと罵るだけでなく、体に触ってきたりして……」
彼は部屋の中の様子は見えなかったが、髙橋余光がきっと筆談ボードに何か返事を書いているところだろうと想像できた。
しばらくして、森川記憶の声がまた聞こえてきた。「髙橋綾人に頼むの?でも私、彼とはあまり親しくないわ」
髙橋余光はおそらくまた何か書いたのだろう。森川記憶は言った。「余光お兄さんが私のために彼に頼んでくれるの?」
彼は髙橋余光が助けを求めに来るのを待つまでもなかった。彼女が竹田章に体を触られたと聞いた瞬間、すでに怒りで頭が沸騰していた。カバンも置かずに階下へ駆け下りながら、デブに電話をかけた。電話で彼はデブに、名古屋中をひっくり返してでも竹田章を見つけ出すよう言った。
翌日の昼になってようやく、彼は竹田章の居場所を知った。
彼はデブが人を集めるのを待たず、単身で乗り込んでいった。
その日の午後3時、名古屋の学校のグラウンドで、今でも人々の心を震わせる光景が繰り広げられた。
美しい男が、まるで血を浴びて帰還した英雄のように、傲慢かつ横暴に、服装の乱れた竹田章を引きずって、体育の授業中だった森川記憶の前に連れてきた。