第111章 私がこんなことをする価値はない (1)

林田雅子の言葉がまだ終わらないうちに、森川記憶がどこにいるかを既に知っていた髙橋綾人は、林田雅子を寮に引き戻し、手近な場所に放り投げると、一言も残さずに大股で寮の外へと向かった。

寮のドアは開け放たれており、外には多くの人が立ってこの光景を目撃していた。皆、彼が放っていた殺気に震え上がったようで、彼が出てくると、全員が揃って数歩後ずさった。

髙橋綾人の姿が階段の角で消えるまで、静かな廊下にはようやく小さなささやき声が響き始めた。

全て先ほど起きた出来事についての議論だった。

「何があったの?」

「よくわからないけど、さっきの会話からすると、林田雅子が森川記憶をどこかに閉じ込めたみたいね?」

「林田雅子はなぜ森川記憶にそんなことをするの?同じ寮の仲間なのに、やりすぎじゃない?」