第115章 私がこんなことをする価値もない (5)

森川記憶はまるで突然目を覚ましたかのように、髙橋綾人がここまで話すのを聞いて、急に立ち上がり、背後の椅子を押しやった。

彼女が身をかがめてバッグを拾う時、手首の傷に触れてしまった。

彼は彼女が痛みで眉間にしわを寄せ、下唇を噛むのをはっきりと見た。彼の唇の端も本能的に引き締まった。彼が反応する間もなく、彼女はすでに足取りも乱れて逃げ去っていた。

古びて汚れた教室には、髙橋綾人だけが残された。

明るい陽光が窓から差し込み、静かに彼の上に降り注いでいた。

彼は先ほど椅子の前にしゃがんで彼女の縄を解いていた姿勢のまま、まるで静止画のように動かなかった。

長い時間が経ち、彼はようやく軽く瞼を瞬かせ、彼女が走り去った方向から視線を戻した。

彼は自分がまた間違ったことをし、間違った言葉を言ったことを知っていた。