第119章 私がこんなことをする価値もない (9)

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森川記憶がタクシーに乗って《王城》の撮影現場から少し離れたところまで来ると、彼女が手に持っていた携帯電話にショートメッセージが届いた。

髙橋余光からのものだった。

「マンマン、今夜8時に京都行きの飛行機に乗るよ。もし重要な用事がなければ、夜に家で会おう。」

森川記憶は、髙橋余光がメッセージで言う「家」が、先月彼が彼女に鍵を渡したマンションを指していることを知っていた。

もし他の人だったら、夜遅くに二人きりでいることに少し怖さを感じるだろうが、相手は彼女がよく知っている髙橋余光だ。だから森川記憶はあまり躊躇せずに、携帯の画面で素早く数回タップして返信した。「わかりました、余光さん。」

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約3分ほど経ったとき、静かな車内に「ピンポン」という音が鳴った。

携帯を持ち、窓の外の枯れ木を見つめていた髙橋綾人は、反射的に顔を向け、携帯の画面を見た。