第118章 私がこんなことをする価値もない （8）

おそらく髙橋綾人がいたせいで、森川記憶は撮影を始めたときの演技がやや堅く、台詞を忘れてNGを出してしまうこともあった。

しかし幸いなことに、森川記憶はすぐに感情を落ち着かせ、状態に入ることができた。役に入り込むにつれて、彼女の演技はどんどん滑らかになり、基本的に後半のいくつかのシーンはすべて一発OKだった。

夜のシーンの撮影が終わったのは、すでに11時近くだった。森川記憶は街に戻らず、撮影クルーが手配した近くのホテルに直接宿泊した。

夜にシャワーを浴びた後、森川記憶はすぐに眠りについた。翌朝目覚めると、手首の傷口からまた血が滲み出し、以前よりも腫れがひどくなっていることに気づいた。

今日を乗り切れば『王城』という作品の撮影が完了する。森川記憶はこのような小さな傷のせいで橋本監督に悪い印象を与えたくなかったので、新しい包帯を手首に何重にも巻き、しばらくの間は血が滲み出ないことを確認してから、スタイリストが用意した太い翡翠の腕輪をつけ、再び撮影現場に向かった。