第143章 彼について、彼女が知らない物語(3)

森川記憶は髙橋綾人の車が見えなくなるまで待ってから、エレベーターの前に歩み寄り、上昇ボタンを押した。

髙橋綾人の家は高級マンションで、各世帯に専用のエレベーターが備わっていたため、すぐにエレベーターのドアが開いた。

森川記憶は髙橋綾人の家に二回来たことがあったが、彼の家をじっくり見たことはなかった。

今回は彼女一人だけだったので、玄関でスリッパに履き替えた後、家の中へ少し歩いて、あたりを見回して観察し始めた。

家は豪華で気品があり、彼の与える印象そのままに、高貴で優雅だった。

一階には寝室がなく、森川記憶はまず食堂に行き、水を一杯注いでから、階段を上った。

二階には二つの寝室と書斎があった。森川記憶は髙橋綾人の主寝室に泊まったことがあり、どこにあるか知っていたので、時間を無駄にせず、直接セカンドルームに入った。