第175章 億万の星も彼女には及ばない(5)

しかし彼は何をすればいいのだろう?

一瞬前まで何かしなければと必死に考えていた髙橋綾人は、次の瞬間に自分の車を見つけると、考えることなくドアを開けて座り込み、アクセルを踏み込んで地下駐車場から飛び出し、大通りに乗って、目的もなく市内をぐるぐると走り回り始めた。

自分がどの道を走っているのか、速度がどれくらいなのかも分からなかった。ただ赤信号が点くと止まり、青信号になると進む。まるで思考のない操り人形のように運転し続け、車のガソリンが切れて強制的に止まるまで、彼は気づかなかった。ただひたすらアクセルを踏み続け、足の裏が痛くなるまで踏み続けて、やっと眉をひそめ、少し我に返り、下を向いてメーターを見ると、ガソリンが切れていたのだった……

午後に給油したばかりなのに……髙橋綾人はそう考えながら、ゆっくりと顔を窓の外に向けると、夜の闇が深く広がっていた。