第179章 億万の星も彼女には及ばない（9）

-

保険会社から派遣された人が来て車に給油してくれた。髙橋綾人はしばらく車内に座っていてから、再びエンジンをかけた。

彼は静かで人気のない通りを約30分ほど走り、自分でもまだどこへ行くか決めていないうちに、ブレーキを踏んでゆっくりと停車した。

振り返り、窓越しに見ると、彼は自分が再び「フォーシーズンズホテル」の入り口に戻っていることに気づいた。

ドアマンは彼の車を認識し、急いで走ってきて、丁寧に車のドアの横で彼が降りるのを待っていた。

髙橋綾人は窓を下げ、ドアマンに手を振って離れるよう合図した。

ドアマンが去った後、髙橋綾人は窓を再び上げ、これから学校に行くか、それとも家に帰るか考え始めた。

とても単純な選択なのに、彼は長い間決められず、気づかないうちに視線はフォーシーズンズホテルの最上階に向けられていた。