第199章 あなたが一生迷い続けても、私のそばに来ることを願う(9)

「……あれ?違うわね、あなたが秋に撮影した映画って、『王城』じゃないの?つまり、あなたと綾人は同じ撮影現場にいたってことよね……ねえ記憶ちゃん、今あなたと綾人はどんな関係なの?」

長い間話しても返事がなかった森川叔母さんは、思わず声を大きくした。「記憶ちゃん、お母さんが話しかけてるのよ!」

「まあまあかな……」森川記憶はいい加減に答え、窓の外に目を向けた。

海岸に近づくにつれて、風も強くなってきた。森川記憶は車の窓を上げた。

窓ガラスには、車載テレビの映像がはっきりと映り込んでいた。そこでは同じ映像が繰り返し流れていて、しばらくすると『王城』の初公開の様子が見えた。

……

ホテルに到着すると、森川記憶は両親とあまり話さず、自分の部屋に直行した。

車載テレビで髙橋綾人を見たせいか、森川記憶の気分は少し落ち込んでいた。ベッドの上でしばらくぼんやりとした後、やっと眠りについた。

今年の旧暦の十二月は大晦日がなく、二十九日が除夜となっていた。

森川お父さんはヨットで年越しの食事を予約していた。午後まで寝ていた森川記憶は、身支度を整えると、すぐに海上のヨットへ向かい、両親と合流した。

年越しの食事を終えると、森川記憶は両親の邪魔をしないよう、気を利かせてその場を離れ、ヨットのデッキで海風に当たることにした。

岸辺で花火を打ち上げる人がいて、海の上空には絶え間なく壮麗な花火が咲き誇っていた。

彼女はイヤホンをつけて音楽を聴きながら、空を見つめてぼんやりとしていた。そのとき、耳元の音楽が一瞬途切れ、代わりに「ピンポン」という音が聞こえた。2秒後、音楽が再開した。

森川記憶は自分のスマホにメッセージが届いたことを知った。彼女は頭を上げたまま、空に咲き誇る美しい花火が散るのを見届けてから、やっとスマホを目の前に持ってきて、画面のロックを解除した。

「髙橋余光」からのWeChatの新年の挨拶だった。「新年おめでとう、マンマン」

森川記憶は常に自制心を持って、髙橋余光と近づきすぎないようにしていたが、このような新年の挨拶を受け取ると、礼儀正しく返信した。「余光さん、新年おめでとう」

森川記憶がメッセージを送ってから30秒も経たないうちに、また「髙橋余光」からメッセージが届いた。「マンマン、今何してるの?」

森川記憶:「花火を見てる」