第196章 あなたが一生迷い続けても、私のそばに来ることを願う(6)

ビルを出ると、森川記憶は足を止め、振り返って「髙橋余光」のアパートがある階を見上げた。

彼女は約30秒ほど見つめた後、少し頭を下げ、まぶたを落として、一瞬よぎった暗い表情を隠した。

彼女は思った。余光さんは、彼女と髙橋綾人が4年前に起こしたことを知らないのだろう。もし余光さんが彼女と双子の弟が関係を持ったことを知っていたら、きっと彼女との協議結婚を提案しなかっただろう。

そして彼女も、髙橋綾人と関係を持った後で、彼の兄と関わることなどできなかった。

いつか彼と彼女の感情が深まり、抜け出せなくなってから距離を置くよりも、まだ自分が心を投げ出していない今、余光さんがまだ自分の心の中の好意をコントロールできるうちに、二人の関係を安全な距離に保っておく方がいい。

今は少し未練や後悔があるかもしれないし、彼も愛しても得られない悲しみを感じるかもしれない。でも、それは深く愛し合ってから引き裂かれるよりはずっとましだ。