第204章 あなたの身分を見る(4)

おそらく両方があまりにも静かだったからだろう、「髙橋余光」の方から歌声が聞こえてきた。

穏やかな音楽を通して、森川記憶は「髙橋余光」の呼吸音をかすかに聞くことができた。浅くも力強い。

孤独で冷たい夜が、一瞬で美しいものに変わった。

森川記憶は携帯を持ちながら、思わず顔を上げて、空の星々を見つめた。

しばらくすると、森川記憶は「髙橋余光」の方で携帯の着信音が鳴るのを聞いた。

森川記憶は本能的に「余光さん」と声をかけた。彼女は「電話が来たなら、一旦切りましょうか」と言おうとしたが、後の言葉を言い終える前に、近くから二人の足音が聞こえてきた。

森川記憶が振り向くと、一人の男性と一人の女性が歩いてきた。

男性は手に携帯を持ち、話していた。「あなたが送ってくれた場所に着いたけど、まだ彼女を見つけられていない…」