第231章 森川記憶、ごめんなさい(1)

二枚目は髙橋綾人の寮の同室に宛てたものだった。「昨夜、お前がトイレでオナニーしていたのを知っているぞ」

「……」

みんな顔見知りの友達だったので、書かれていたのは恥ずかしいエピソードばかりで、全員が大笑いしていた。最後の一枚になり、クラス委員長がそれを開いたとき、これまでのように興奮して読み上げるのではなく、驚いた表情で森川記憶を見つめ、そして紙を彼女の前に差し出した。

2秒ほど経って、森川記憶はようやくこの紙が自分宛てかもしれないと気づき、疑わしげに手を伸ばして受け取った。

先ほどのクラス委員長の驚いた表情から、森川記憶の心の中には少なからず緊張があった。彼女は紙を持ったまま2秒ほど躊躇してから開いた。

下を見ると、真っ白な紙に、黒いインクの文字がはっきりと目に入った。「森川記憶、ごめんなさい」

先ほどクラス委員長が驚いたのも無理はない。森川記憶自身も、この五文字を見たとき、完全に呆然としてしまった。

ごめんなさい……誰が彼女に謝っているのだろう?

この部屋にいる髙橋綾人の寮の3人は、今夜初めて会った。クラス委員長の寮の4人とは、何のいざこざもなかった。山田薄荷と山崎絵里……彼女たち二人は他の紙のように彼女をからかうだけで、彼女たちではないはず……

唯一、髙橋綾人だけが彼女と不愉快な出来事があった……

でも、あんなに高慢な人が、彼女に頭を下げて謝るだろうか?

森川記憶はそう考えながら、思わず軽く目を上げ、髙橋綾人が座っている方向を見た。

彼は手にタバコを挟み、立ち上る煙越しに、じっと彼女を見つめていた。

彼の眼差しは、漆黒で深遠で、まるで言葉を話すかのようだった。彼女の視線に気づくと、軽くまつ毛を二回瞬かせ、心を魅了するような雰囲気を放った。

彼はおそらく、彼女の目に浮かんだ言葉を見たことによる疑問を察知し、彼女の目をじっと見返した。二秒ほど見つめた後、彼女に向かってとても軽く頷いた。

森川記憶の指先が震え、無意識に目を伏せ、手の中の紙をぎゅっと握りしめた。

髙橋綾人が彼女に向かって頷いたのはどういう意味だろう?

無言の動作で、彼女が手にしている紙の文字は彼が書いたものだと伝えようとしているのだろうか?

つまり、本当に彼が彼女に謝っているのか?フォーシーズンズホテルであの夜のことについてだろうか?