第232章 森川記憶、ごめんなさい(2)

男性が彼女をずっと見つめていたのか、それとも偶然にも再び彼女の方を見たのか、彼女の視線と彼の目がまた重なってしまった。

森川記憶の心臓が激しく跳ねた。しかし、それはほんの一瞬のことで、彼女はさも何気なく髙橋綾人の方を見たかのように視線を逸らした。

おそらく先ほど彼と目が合ったせいだろう、彼女の脳裏に彼が自分に向かってうなずいた場面が浮かんだ。彼女は無意識のうちに、スマホで押さえていたテーブルの上の紙を指先で押した。

一回のゲームが終わり、誰かが新しいラウンドのゲームをどう進めるか考え始めた。

みんながあれこれと提案している最中、髙橋綾人のスマホが鳴った。

彼はスマホを取り出して画面を見ると、みんなから離れることなく、そのまま電話に出た。

電話の向こうの人が何かを言ったようで、彼は「わかった、すぐに行く」と返事をして、電話を切った。そして立ち上がり、後ろに置いてあった上着を取りながら、部屋中の人に「用事ができた、先に失礼する」と言った。

みんなが「綾人さん、さようなら」「綾人さん、お気をつけて」と声をかける中、髙橋綾人は顔を上げて森川記憶を一瞥してから、歩き出し、個室を後にした。

髙橋綾人が去ってしばらくすると、店員がドアを開けて入ってきて、笑顔で新しいゲームを考えていた一同を遮った。「もうすぐ店の願いの鐘が鳴ります。ご興味のある方は、一階のロビーの願いの鐘の前で願い事をどうぞ」

願いの鐘はこの火鍋店の特徴で、オーナーはタロットカードの達人だと言われており、毎日ある時間を占って、願いの鐘を5秒間鳴らすという。

その5秒間、店内の灯りが消え、真っ暗闇の中で、もし心から好きな人にキスして告白すれば、いつか二人は結ばれるという。

おそらくこの願いの鐘のテーマが恋愛に関係しているからか、映画大学の学生の多くがここに訪れる。さらに、実際に多くのカップルが恋人同士になったことから、長い間、願いの鐘が鳴る時は告白の聖地となっていた。

願いの鐘が鳴る時間は決まっていないため、食事に来ても必ずしも遭遇できるわけではない。今日はたまたま遭遇したので、部屋の中の多くの人が階下に見に行こうと提案した。

森川記憶は願いの鐘について聞いたことはあったが、鐘が鳴る場面を見たことはなく、彼女も少し好奇心を抱いて、山崎絵里と山田薄荷と一緒に階下に降りた。