第279章 あなたは一人じゃない、私がいるから(9)

レストランを出て、エレベーターに乗り込むと、森川記憶は階数表示を見つめ、少し迷った後、最終的に最上階のボタンを押した。

エレベーター内の赤い数字が上がっていくにつれて、森川記憶の心臓の鼓動は速くなり、思わず手に持っていた持ち帰り袋をきつく握りしめた。

目的の階に到着し、「ピン」という音と共にエレベーターのドアが開くと、森川記憶は深呼吸してから一歩踏み出した。

長い廊下を歩き、二度曲がった先に、ようやく髙橋綾人の部屋番号が見えてきた。

森川記憶は足を止め、髙橋綾人の部屋のドアをじっと見つめたが、なかなかドアをノックする勇気が出なかった。

彼女はドアの前をうろうろし始め、髙橋綾人の部屋の前に置かれた観葉植物の横を三度目に通りかかった時、突然深呼吸をして大股でドアに近づき、インターホンに手を伸ばした。

しかし指先がインターホンに触れる前に、また気持ちが萎えてしまった。

こんな風にチャーハンを持って彼の部屋に現れるのは、あまりにも唐突すぎるのではないか?

森川記憶は指先を縮め、ドアの前で少し迷った後、結局諦めることにした。手を引っ込めて立ち去ろうとした瞬間、髙橋綾人の閉まっていたドアが内側から勢いよく開かれた。

森川記憶は驚いて体を震わせ、後ろに二歩下がった。

ドアを開けた人も、外に誰かが立っているとは思っていなかったようで、森川記憶を見て「おっ」と声を上げ、それから落ち着きを取り戻して彼女を見た。彼は少し驚いた様子で言った。「森川さん?!」

森川記憶は激しく鼓動する心臓を何とか落ち着かせ、顔を上げてドアを開けた人を見た。

彼女は彼を知っていた。髙橋綾人のアシスタントで、田中白という名前だった。

「森川さん、どうしてここに?」田中白は再び口を開いた。明らかに落ち着いた口調で、先ほどの驚きはなかった。

「私は…」元々髙橋綾人を訪ねる理由を考えていなかった森川記憶は、一言だけ言って気まずそうに言葉を止めた。

「高橋社長をお探しですか?」田中白は深く考えず、森川記憶の言葉が途切れたのを見て話を続けた。彼は森川記憶の返事を待たずに、ドアから身を引き、部屋の中へと招き入れるジェスチャーをした。「森川さん、どうぞお入りください。」

現場を押さえられた以上、準備ができていなくても逃げる場所はなかった…森川記憶は渋々田中白について部屋に入った。