第268章 公正はなく、あなたが間違っていて彼女が正しいだけ(8)

濃い怒りがまだ体内に残っていたところに、新たな苛立ちと後悔が彼を襲いかかった。

体内に積もった複雑な感情に、髙橋綾人は対処のしようがなく、唇を引き締め、森川記憶をにらみつけた後、突然彼女の手を離し、力強くドアを開け、大股で立ち去った。

ドアが強く閉められ、室内は一瞬にして静まり返った。

森川記憶は壁にもたれかかり、しばらくじっと立っていた後、腰の痛みをこらえながら、ゆっくりとベッドに戻って座った。

森川記憶は自分がどれくらいの間ぼんやりと座っていたのか、また心の中で何を考えていたのかわからなかった。とにかく思考は乱れていた。ようやく心が落ち着いてきて、トイレに行こうと立ち上がった時、目の隅にウォーターバーの上の袋が目に入った。

それは髙橋綾人が持ってきたものだった……

森川記憶はベッドの傍らでしばらく立ち尽くした後、やっと足を動かして近づいた。

袋を開けると、中には丁寧に包装された豪華な夕食の箱が何個も入っていた。

その横には小さなビニール袋があり、中にはいくつかの薬が入っていた。解熱剤、ビタミン剤、そして傷跡を消すためのものまで……

髙橋綾人は……彼女を部屋に送った後、なぜか怒って、ドアを叩いて出て行ったが、彼女を放っておいたわけではなく、夕食と薬を買いに行ったのだろうか?

この映画村には、まともな薬局はない。彼はわざわざ車で近くの町まで買いに行ったのだろうか?

森川記憶のようやく落ち着いた心は、大きな石を投げ込まれたかのように、再び波立ち始めた。

もしこれまで髙橋綾人が彼女のことをどう思っているのか確信が持てなかったとしたら、今この瞬間、袋の中身を見て、一つの事実を信じざるを得なかった。髙橋綾人は、彼は、心の中で彼女を気にかけ、大切に思っているのだ!

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ホテル最上階の1001号室。

髙橋綾人は指にタバコを挟み、ソファに座っている菅生知海に背を向け、大きな窓の前に立ち、冷たい表情で外を見つめていた。

菅生知海は彼に絶え間なく話しかけていたが、彼は注意深く聞いておらず、気にする余裕もなかった。部屋の雰囲気は冷たく感じられた。

どれくらい時間が経ったか分からないが、スイートルームのドアがノックされ、菅生知海の「どうぞ」という声とともに、ドアが開き、髙橋綾人の秘書が佐藤未来を連れて入ってきた。