第261章 公正はなく、あなたが間違っていて彼女が正しいだけ（1）

髙橋綾人はようやく反応を示したが、彼は千歌を見ることなく、視線を森川記憶の顔から何気なく千歌が床に散らばらせた栄養剤へと移した。

千歌は髙橋綾人が自分の言葉を聞いて反応したのを見て、急いで口を開いた。「……高橋先生、私のマネージャーは冤罪です。あなたは撮影チームの監督であり、プロデューサーでもあります。この事件はあなたの撮影チームで起きたことですから、あなたが解決すべきです……」

髙橋綾人が千歌の言葉を聞いていたかどうかは分からなかったが、彼はただじっと栄養剤を見つめていた。

約1分後、森川記憶の視界に入ってから今まで一度も動かなかった彼が、突然足を上げて部屋に入った。

彼が森川記憶の傍を通り過ぎる時、彼女の指先が微かに震え、心の中はますます落ち着かなくなった。

彼は彼女の部屋で何をするつもりだろう？

千歌も彼女と同じ疑問を抱いていたのだろう。彼女の絶え間なく続いていた話は一旦止まり、約10数秒後にまた続けた。「記憶がこんなに堂々と人を陥れるなんて、本当にひどすぎます。しかも彼女のこのような行動は、私たちの撮影チームの進行も妨げています。人格的にも仕事的にも、記憶は適格な女優ではありません……」

髙橋綾人は千歌の言葉に対して、先ほどと同じく平静な態度を保っていた。彼は手に持っていた大きな袋を、何気なく森川記憶の部屋のバーカウンターに置き、それから歩いて千歌が持ってきた栄養剤の山の前に立ち止まった。

ただのありふれた栄養剤の山なのに、彼がずっと見つめている意味は何だろう？

千歌の話はまた一瞬途切れたが、すぐにまた声を出した。「……高橋先生、私は記憶に説明を求めたいです。そして私のマネージャーに公正な扱いをしていただきたいと思います！」

千歌のこの言葉のどの単語が髙橋綾人の注意を引いたのかは分からないが、現れてから今まで千歌を一度も見なかった彼が、突然振り向いて、視線を淡々と千歌に向けた。

彼は千歌をほんの数秒見ただけで、視線を戻し、部屋を左右に見回してから、歩いて森川記憶の部屋のベッドサイドテーブルへ向かった。

立ち止まると、彼はベッドサイドテーブルの固定電話の受話器を取り、耳に当てながら、電話のあるボタンを押した。