第297章 撮影現場の寵児(7)

おそらくトイレで先ほど経験した騒ぎに驚かされたのか、本来トイレに行きたかった森川記憶は、便座に座ったまま丸々3分間も過ごしてようやくトイレを済ませた。

個室から出ると、森川記憶は一行の人々に微笑みながら洗面台に向かい、蛇口をひねって丁寧に手を洗った。ちょうどペーパータオルを取ろうとした時、彼女の目の前にペーパータオルが現れた。

午前中ずっとこのような驚くべき場面を経験していたとはいえ、森川記憶は本当に驚いてしまった。彼女はペーパータオルを2秒ほど見つめた後、それを持つ手をたどって上を見上げると、25、6歳ほどの女性が目を細めて彼女に微笑んでいた。

森川記憶は力強く唾を飲み込み、ドキドキする小さな心臓を落ち着かせてから、微笑みながら「ありがとう」と言ってペーパータオルを受け取った。