第297章 撮影現場の寵児(7)

おそらくトイレで先ほど経験した騒ぎに驚かされたのか、本来トイレに行きたかった森川記憶は、便座に座ったまま丸々3分間も過ごしてようやくトイレを済ませた。

個室から出ると、森川記憶は一行の人々に微笑みながら洗面台に向かい、蛇口をひねって丁寧に手を洗った。ちょうどペーパータオルを取ろうとした時、彼女の目の前にペーパータオルが現れた。

午前中ずっとこのような驚くべき場面を経験していたとはいえ、森川記憶は本当に驚いてしまった。彼女はペーパータオルを2秒ほど見つめた後、それを持つ手をたどって上を見上げると、25、6歳ほどの女性が目を細めて彼女に微笑んでいた。

森川記憶は力強く唾を飲み込み、ドキドキする小さな心臓を落ち着かせてから、微笑みながら「ありがとう」と言ってペーパータオルを受け取った。

手を拭き終わり、ペーパータオルをゴミ箱に捨てようとした時、彼女にペーパータオルを渡した女性が手を伸ばして使用済みのペーパータオルを彼女から受け取り、近くのゴミ箱へと向かった。

トイレから出ると、あまりにも多くの親切と配慮を受けた森川記憶は、もうレストランに戻る勇気がなく、直接撮影現場へと向かった。

撮影時間までまだ早かったので、彼女はこの後撮影クルーの人々に会って、またお互いに極端に友好的な笑顔を交わすことを恐れ、窓際のソファに座り、目を閉じて眠りのふりをすることにした。

窓の外からの暖かい日差しが体に当たり、とても心地よく、眠りのふりをしていた森川記憶は、いつの間にか本当に眠りについてしまった。

自然に目が覚めた時、窓の外の日差しはまだ眩しく、彼女は少し目を開けられないほどだった。彼女は手を上げて軽く顔を覆うと、すぐ横から「ピンポン」という音が聞こえてきた。

彼女は反射的に振り向くと、撮影クルーの女優の一人にメッセージが届いていた。しかし彼女はメッセージを見ずに、慌ててスマホをマナーモードにし、それから少し不安そうに休憩室の入り口を見上げた。

森川記憶は思わず彼女の視線を追い、青いスーツを着た田中白が入り口に立ち、その女優を警告するような表情で見つめているのを目にした。

女優は大きな過ちを犯したかのように、顔色を失って彼女の方をちらりと見た。

彼女の視線に気づいた森川記憶は、少し困惑して眉をひそめた。