第340章 後悔したことはありますか?(10)

森川記憶がちょうど「カードキーをください、自分で部屋に戻ります」と髙橋綾人に丁寧に言おうと考えていたとき、髙橋綾人は立ち止まり、カードキーでドアを開けた。

森川記憶は反射的に言葉を「ありがとう」に変えたが、まだ「あり」という音の半分しか発していなかった。彼女が手を伸ばして髙橋綾人の指先からカードキーを受け取る前に、ずっと黙って階段を上がってきた男性が、静かな声で口を開いた。「田中白が言うには、今は観光シーズンで、ここの部屋はすべて予約でいっぱいで、この一室しか残っていないそうだ」

この一室しか残っていない……森川記憶は一瞬呆然とした。

つまり、今夜は髙橋綾人と同じ部屋で過ごさなければならないということ?

髙橋綾人は彼女の反応に気づかないふりをして、ドアを押し開け、部屋に入った。