「本当にそうね……」
クランクアップパーティーの開会の挨拶が終わり、森川記憶の前に座っていた二人が前後して席を立った。
彼らの会話をすべて耳に入れていた森川記憶は、しばらく席に座ったままでいてから立ち上がった。先ほどの空席を通り過ぎる際、少し身を前に傾けて椅子の背もたれに貼られた名前を見ると、「竹田周太」と書かれていた。
彼らが言っていた通り、確かに竹田社長の席だった……
森川記憶は視線を巡らせ、パーティー会場全体を見渡した。何度も探したが、竹田周太の姿は見つからなかった。
……つまり、先ほど聞いた話は本当だったの?
髙橋綾人は彼女に一言、竹田社長のことが嫌いかどうか尋ねただけで、彼女が答えもしないうちに、自分の判断で彼をパーティーから追い出したの?
撮影クルーの誰かが森川記憶に挨拶しに来たので、彼女は思考を切り替え、給仕から一杯のお酒を受け取った。
彼女は人と会話しながらも、時々視線を髙橋綾人の方へ向けていた。
ようやく彼の周りの人々が散っていき、彼は応対に疲れたのか、窓際の席に座った。
森川記憶はそこで自分と話していた数人に丁寧に「すみません、用事があるので」と言い訳して、髙橋綾人の方へ歩み寄った。
彼女の足音は軽かったが、彼女が彼の側に来た時、彼はそれに気づき、眉間を揉んでいた手を下ろして振り向いた。
彼は彼女を見ると、何も言わず、自分の隣の空席を軽く指差し、それから再び手を眉間に当てて揉み始めた。
森川記憶は彼が座るように言っていることを理解し、身をかがめてまずグラスをテーブルに置いてから、ドレスの裾を持ち上げて座った。
二秒ほど沈黙した後、森川記憶は尋ねた。「竹田社長を追い出したの?」
髙橋綾人は無造作に「うん」と返事をしたが、眉間を揉む動作は止めなかった。
すでに知っていた事実だったが、彼のこの冷たくも熱くもない「うん」という返事に、心が揺れ動いた。
森川記憶はグラスを手に取り、軽く一口飲んで自分の感情を落ち着かせてから、また口を開いた。「理由も聞かないの?」
髙橋綾人が疲れすぎて彼女の言葉をよく聞いていなかったのか、それとも一瞬彼女の言葉の意味を理解できなかったのか、彼は眉間を揉む動作を止め、少し困惑した様子で「ん?」と声を出した。