——「気が晴れた?」
——「これで十分よ」
あの時、彼女が理由も聞かずに竹田周太を外に出すよう頼んだときの返答パターンとまったく同じだった。
森川記憶はすぐに髙橋綾人の言葉の意味を理解した。彼の会社に影響があるかどうかは重要ではなく、彼女の気が晴れることが重要だということだ。
森川記憶の心は突然乱れた。彼女は髙橋綾人に言いたいことがたくさんあった。「ありがとう」と言いたかったし、「彼がこうしてくれて嬉しい」とも言いたかった。さらには「これからは自分のことをもっと考えてほしい」とも言いたかった。しかし、これらの言葉は全て喉元に詰まり、どこから話し始めればいいのか分からなくなった。
まずは彼にお礼を言おうか…
森川記憶はしばらく黙っていたが、ようやく決心して口を開こうとした瞬間、遠くから甲高い声が聞こえてきた。「綾人」