第359章 これが私の答えだ(9)

——「気が晴れた?」

——「これで十分よ」

あの時、彼女が理由も聞かずに竹田周太を外に出すよう頼んだときの返答パターンとまったく同じだった。

森川記憶はすぐに髙橋綾人の言葉の意味を理解した。彼の会社に影響があるかどうかは重要ではなく、彼女の気が晴れることが重要だということだ。

森川記憶の心は突然乱れた。彼女は髙橋綾人に言いたいことがたくさんあった。「ありがとう」と言いたかったし、「彼がこうしてくれて嬉しい」とも言いたかった。さらには「これからは自分のことをもっと考えてほしい」とも言いたかった。しかし、これらの言葉は全て喉元に詰まり、どこから話し始めればいいのか分からなくなった。

まずは彼にお礼を言おうか…

森川記憶はしばらく黙っていたが、ようやく決心して口を開こうとした瞬間、遠くから甲高い声が聞こえてきた。「綾人」

森川記憶が言おうとしていた言葉は、突然口元で凍りついた。彼女は一秒ほど躊躇してから、ゆっくりと頭を回して声のする方向を見た。

田中白だった。彼は若くて美しい女性を連れて、髙橋綾人と彼女が座っている場所に向かって歩いてきた。

その女性は肌が白く、立体的な顔立ちをしていた。ビジネススーツを着て髪を全て結い上げていたが、彼女から漂う女性らしさは隠しきれなかった。男性だけでなく、森川記憶でさえ一目見ただけで、その美しさに心の中で驚嘆した。

「高橋社長、夏目さん…」髙橋綾人の前に来て足を止めた田中白は、まだ紹介の言葉を言い終えないうちに、彼の隣にいた女性は既に髙橋綾人の前に駆け寄り、笑顔で声をかけた。「綾人、私が来て驚いた?」

髙橋綾人が田中白が言う「夏目さん」の出現に「驚いた」かどうかは分からないが、彼は数秒間沈黙した後、ようやく口を開いた。「どうしてここに来たの?」

「田中白、先に水を一杯持ってきて、喉が渇いたわ」女性は髙橋綾人の質問に急いで答えず、まず横に立っている田中白に命じた。