第367章 一千本の修正液(7)

顔に漂う強烈な酒の匂いに、髙橋綾人は眉間を少しひそめた。そして彼の視線はテーブルに移った。

5、6本の空のワイングラス、3分の1ほどしか残っていない大きなウイスキーボトル...まさか、これ全部彼女一人で飲んだのではないだろうか?

まだ森川記憶の状態を確認していない田中白が近づいてきた。「高橋社長、森川さんは大丈...」

「夫ですか?」この二言は、田中白が口にする前に、髙橋綾人から投げかけられた冷たい視線に怯んで声が途切れた。

「彼女を見ていてくれと頼んだのに、どうやって見ていたんだ?どうして彼女にこんなに酒を飲ませた?!」

田中白は髙橋綾人に怒鳴られて身震いし、思わず一歩後ずさりした。そして森川記憶の方を見た。

やはり、女の子の目はすでにうつろになっており、明らかに酔っぱらっていた...彼はちょっとお腹の調子が悪くて、トイレに長く居ただけなのに、出てきたら状況が一変していた...

次の瞬間、田中白は非常に機転を利かせてすぐに声を上げた。「高橋社長、すぐに二日酔い防止のスープを用意させます!」

そう言いながら、田中白は身を翻し、レストランの方向に走り出そうとした。しかし彼が数歩も進まないうちに、森川記憶がソファから勢いよく立ち上がった。「そこで止まりなさい!」

田中白は条件反射的に足を止め、振り返って森川記憶を見つめ、少し取り入るような笑みを浮かべて言った。「森川さん、何かご用でしょうか?」

森川記憶が彼の言葉を聞いたのかどうか、あるいは彼女がどれほど酔っていて人を認識できるのかも定かではなかったが、とにかく彼女は彼をしばらく見つめた後、もつれた舌で口を開いた。「髙橋綾人を見かけませんでしたか?」

「高橋社長はあなたの隣にいますよ!」田中白はすぐに答えた。

「ああ」森川記憶は頷きながら返事をし、隣に立っている髙橋綾人の顔をざっと見回した後、独り言をつぶやき始めた。「彼はまだ上の階から降りてこないのね、いったいどれだけ上にいるつもりなのかしら?もしかして疲れて寝ちゃったのかな...」

彼女の声は少し小さく、酒を飲んでいたため発音も不明瞭で、言葉はぼんやりとしていた。田中白はもちろん、彼女の隣に立っている髙橋綾人でさえ、彼女が何を言ったのか聞き取れなかった。