第364章 千本の修正液(4)

森川記憶は息を殺し、全神経を集中して暫く聞いていると、隣の部屋から微かな水の流れる音が聞こえてきた。

水の流れる音……

森川記憶は無意識に顔を上げ、頭上のシャワーヘッドを見上げた……

誰かがシャワーを浴びているのだろうか?

隣の部屋には、髙橋綾人と夏目美咲しかいない。彼らがシャワーを浴びる理由は何だろう?

この考えが森川記憶の心をよぎった瞬間、髙橋綾人と夏目美咲がキスし絡み合うシーンが次々と彼女の脳裏をよぎった。

森川記憶の指先が軽く震え、その場に凍りついた。

彼女は呆然と顔を上げたまま、じっとシャワーヘッドを見つめ続け、首が痛くなってようやく視線を戻し、頭を下げた。

彼らは今彼女が想像したようなことはしていないはずだ。でも、男女二人きりで部屋にいて、しかもシャワーまで浴びて……だから、さっき髙橋綾人の部屋の前を通ったとき、給仕が髙橋綾人に渡した黒い袋の中身はコンドームだったのではないだろうか?