森川記憶は髙橋綾人が口を開く前に先に声を出した。「お風呂に入ってくる。」
言い終わると、彼女は髙橋綾人の横をすり抜け、足早に浴室へと駆け込んだ。
森川記憶は洗面所で長い時間をもたついた。先ほどの「キス」で髙橋綾人と向き合っても気まずさで取り乱さないと確信できるまで、ようやくドアを開けて洗面所から出てきた。
彼女はすでにベッドに横たわっている髙橋綾人の方を一目も見ずに、もう一つのベッドの側に行き、「もう遅いから、寝ましょう」と言って、病室の電気を消し、ベッドに上がり、布団を引っ張って頭まですっぽり覆った。
森川記憶は真っ暗闇の中で、静かに長い時間横になっていた。隣のベッドの髙橋綾人が眠りに落ちるまで待ち、ようやくゆっくりと布団をめくり、長時間閉じ込められていた頭を出した。