第472章 出世する日なんて夢のまた夢(2)

森川記憶は髙橋綾人が口を開く前に先に声を出した。「お風呂に入ってくる。」

言い終わると、彼女は髙橋綾人の横をすり抜け、足早に浴室へと駆け込んだ。

森川記憶は洗面所で長い時間をもたついた。先ほどの「キス」で髙橋綾人と向き合っても気まずさで取り乱さないと確信できるまで、ようやくドアを開けて洗面所から出てきた。

彼女はすでにベッドに横たわっている髙橋綾人の方を一目も見ずに、もう一つのベッドの側に行き、「もう遅いから、寝ましょう」と言って、病室の電気を消し、ベッドに上がり、布団を引っ張って頭まですっぽり覆った。

森川記憶は真っ暗闇の中で、静かに長い時間横になっていた。隣のベッドの髙橋綾人が眠りに落ちるまで待ち、ようやくゆっくりと布団をめくり、長時間閉じ込められていた頭を出した。

彼女は天井を見つめ、しばらく慎重に呼吸した。酸素不足で苦しかった胸がようやく楽になると、彼女はそっと頭を回し、隣の髙橋綾人を見た。

眠っている彼の完璧な輪郭の顔は静かで眩しかった。病室の薄暗い常夜灯が、彼の顔立ちを非常に柔らかく完璧に映し出していた。

彼女の視線は何度も彼の顔を巡り、長い間見つめた後、最終的に彼の唇に焦点が定まった。

彼の唇の色は元々美しかったが、灯りの映えで、まるで柔らかい光を当てたかのように、一層魅力的に見えた。森川記憶は思わず見入ってしまった。

どれくらい時間が経ったか分からないが、髙橋綾人はその姿勢で寝づらかったのか、体を反転させ、森川記憶に背を向けた。

長い間見つめていた森川記憶は、そっとまぶたを瞬かせ、髙橋綾人の後頭部から視線を外しながら、彼の方に傾いていた頭を正し、再び天井を向いた。

静かな夜の中で、彼女は自分の心の底に、先ほど彼の唇を見つめていた時に湧き上がった、近づいてキスしたいという衝動をはっきりと感じていた。

かつて東京で、彼女が酔っ払った夜と同じように。

唯一違うのは、今夜の彼女の心の衝動が、酔った夜よりもさらに強かったことだ。

先ほど、彼女が誤って彼の唇に触れ、我に返って慌てて避けた後、心の底に後悔の念が這い上がってきたようだった。

彼女はずっと自分に考えさせないようにしていた、一体何を後悔していたのかを。しかし今、彼女は認めざるを得なかった。彼女の後悔は、完全に偶然だった「キス」に、少し未練があったからだということを……