第485章 私が守る人に、誰が文句を言えるのか?(5)

髙橋綾人は林田部長の言葉を聞いても、まだ口を開く気配はなかった。

彼は松本儀子から電話を受けるとすぐに戻ってきた。飛行機は13時間の長旅を経て、今朝の京都時間8時に成田国際空港に着陸した。

飛行機を降りるとすぐに、彼は家にも寄らず、会社に直行した。

彼と田中白が会社のロビーに入ったとき、ちょうど今日脚本会議のために来ていた佐藤未来と出くわした。彼女は受付の女性と話していて、彼と田中白に気づいていなかった。受付の女性がアメリカにいるはずの彼が会社に現れたことに驚いて挨拶するまで、佐藤未来は彼らの方を振り向かなかった。

しかし、受付の女性の驚きとは対照的に、佐藤未来は彼が何のために戻ってきたのかを知っているかのように、受付に寄りかかっていた体を起こし、ハイヒールで彼の前まで歩いてきて言った。「記憶ちゃんも会社にいるわ。林田部長に呼ばれて、第二会議室にいるわ」

森川記憶は足を捻挫したのに、今日も会社に来たのか?

これを聞いて、彼は佐藤未来に一言も言わずに、エレベーターに乗って上の階へ向かった。

エレベーターを出ると、オフィスの社員たちの挨拶を無視して、彼は第二会議室に直行した。ドアを押す前に、中から林田部長の声が聞こえてきた。「私が彼女を追い出さないで、誰を追い出すというの?!」

彼は会議室で何が起きているのか詳しくは知らなかったが、良いことではないと予感し、すぐにドアを開けた。

今、森川記憶、松本儀子、林田部長の三人の表情から、明らかに何らかの衝突があったことが分かった…

髙橋綾人は林田部長をしばらく見つめ続けたが、結局彼女の先ほどの言葉には反応せず、視線を松本儀子の前に置かれた書類に移した。

彼は動かず、ただ横を向いて田中白を見た。

田中白はすぐに前に進み、書類を取って読み始めた。

すぐに田中白は書類を閉じ、まず林田部長を見てから、彼の言葉を待っている髙橋綾人に向かって言った。「高橋社長、これは契約解除の書類です」

契約解除の書類?

髙橋綾人は眉をしかめ、次の瞬間、田中白の手から書類を奪い取った。

彼はそれを開いて、わずか3秒ほど見ただけで、書類をテーブルに強く投げつけ、林田部長を見つめながら冷たい口調で言った。「どういうことだ?」

林田部長は唇を動かしたが、何も言わず、まぶたを伏せた。