これからは、こんなことはしないで……自分自身を武器にして自分を守るようなことはしないで。
森川記憶の心には様々な感情が渦巻き、しばらくしてから、彼女はようやく髙橋綾人に向かって小さく「うん」と返事をした。
髙橋綾人は彼女が承諾したのを見て、眉目が完全に和らぎ、彼は再び車のエンジンをかけ、通りに沿って前に進んだ。
以前の沈黙を続けていた彼に比べ、今の彼の言葉は多くはないものの、少なくとも彼女に自ら話しかけるようになっていた。
「君は京都市内の夜景を案内してほしいと言ったよね?」
「どこに行きたい?」
「長安通り?」
森川記憶はまた小さく「うん」と答えた。
髙橋綾人は森川記憶が同意したと思い、前方の交差点で左折し、長安通りへと向かった。
おそらく髙橋綾人の先ほどの「これからは、こんなことはしないで」という言葉が本当に森川記憶の心を温めたのだろう。彼女は車窓の外に次々と後退していくネオンを見つめながら、誰にも話すつもりのなかった自分の心の内を、自分でも気づかないうちに、思わず髙橋綾人に話し始めていた。「髙橋綾人、実は私はわざとあなたを騙そうとしたわけじゃないの……」