-
その夜、髙橋綾人は森川記憶の「あなたにサプライズを贈りたい」という言葉に心が温かくなり、彼女が冗談めかして雰囲気を和らげようとしたとき、真剣に「YCがなくなっても、私がいる」と言った。調整しきれなかった雰囲気は、一気に異様なものに変わった。
しかし二人の心の中には、それぞれの遠慮があった。
髙橋綾人は一歩前に進むことで、森川記憶との距離が縮まるのではなく、むしろ遠ざかってしまうのではないかと恐れていた。
自分の髙橋綾人への感情が心ときめきから浅い好意に変わったことに気づいた森川記憶は、髙橋余光のことを思い出した。
そのため、二人とも黙ったまま何も言わず、理性が戻ってきたとき、暗黙の了解で先ほどの会話をさらりと流してしまった。
その夜、森川記憶と髙橋綾人は長安通りに行き、夜景を見て、近くの夜食ストリートで小龍蝦を食べた。髙橋綾人が森川記憶を家まで送り届けたのは、すでに午前2時だった。